響け! 心に!!

なんで「響いたのか?」をしちめんどくさく考えてみる、メンドウな人の考察。アニメ中心考察予定です。

劇場版 響け!ユーフォ感想考察 届けたいメロディ~自分の道を行き(生き)たい!~

 

  • この記事は、作品の具体的な内容に、深く、大きく関わります。

  「バレは困る!」という方は、残念ですが視聴後にご足労いただければ幸いです。

 

  • セリフはすべて聞き起こしです。

   間違いもあるかと思われますが、ご容赦ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・廊下

 

低音パートのメンバーに、田中家訪問の結果を報告させられる久美子。

 

 

 

・黄前家

 

「くさっ」

 

勉強の合間に、ユーフォニアムの教本を手に取る久美子。

それを中断させたのは、漂ってきた異臭でした。

 

久美子が覗き込んだ鍋は、黒焦げ。

なんと味噌汁さえ黒焦げにしてしまう、凄腕の麻美子。

 

手際よくつくっていく久美子と比べるに、料理の手伝いなど母親にさせてもらえなかったのかもしれません。

「そんなことより勉強しなさい」

あくまで想像ですが。

 

麻美子は大量の食材で夕飯をつくり、それをきっかけに仲直りしようとしているようです。

 

「私さ……

 私ね、ずっと自分で決めることを避けてきたの。

 文句言いながら、ずっとお母さんたちの言う通りにしてきた」

 

焦がした鍋をごしごしと洗う麻美子。

その隣で、料理は久美子がつくっていきます。

そこで姉の素直な想いが、久美子に語られます。

 

幸せそうな家族の写真のアップ。

 

「あんたのこと、すごくムカついてた。

 能天気に部活して、なんでこの子ばっかりって。

 私ね、あんたのこと、うらやましかった。

 好き勝手やって、父さんも母さんもあんたのわがまま聞いて」

「お姉ちゃんのほうが、どう考えてもひいきされてたよ

 私は出来が悪いから見放されてただけ」

「そんなわけないでしょ」

「あーる。

 お母さんお姉ちゃんばっか褒めてたし、私の方がいつも拗ねてたんだけど」

「まぁ、自慢の娘だった、てのは認める」

 

 

 

おなじ家族の生活の中で、おなじ時間を過ごしたのにもかかわらず、2人の姉妹の感じ方は異なります。

 

麻美子にとって妹の久美子とは、辞めたくなかった吹奏楽を能天気に続ける、見たくない存在です。

未練を思い出させて、むかつく。

やりたいことを続けているなんて、わがままを聞いてもらえるなんて、うらやましい。

 

久美子にとって姉の麻美子とは、自分よりも出来が良くて、ひいきされている存在。

自分が褒められたくても褒められず、母は姉を褒める話ばかりする。

 

互いが互いに嫉妬の対象だった、ということが語られます。

 

 

 

「でも、演じるのはもう止めることにした。

 高校生なのにわかったふりして、大人のふりして、世の中こんなもんだって全部飲み込んで我慢して……

 でも……

 そんなのなんの意味もない。

 後悔も失敗も、全部自分で受け止めるから、自分の道を行き(生き)たい!」

 

『後悔も、失敗も~』のセリフに重ねて、トロンボーンを閉じ、しまう回想。

本当はトロンボーンを辞めたくなかったということが伝わるシーン。

 

「そう素直に言えばよかった。

 反対されてもそう言えばよかった。

 だから今度は間違えない!」

 

鍋の焦げが落とされるとともに、麻美子は心の中にたまった澱(おり)のようなものも、綺麗に吐き出してしまいます。

いままで久美子に話せなかったことを話せ、スッキリした表情になる麻美子。

 

このシーンのセリフは久美子を動かし、久美子を助ける重要なセリフです。

 

「ねえ、家出てくの?」

「うん」

「そっか」

「寂しい?」

「別に」

「そっか、私はちょっと寂しい。

 ちょっとだけどね」

 

「そうだ、全国聞きに行くから、頑張ってね」

「えっ、お姉ちゃんがまさか、見に来るの」

「だからそう言ってるじゃん」

 

驚きのあまりうろたえ、せっかく味噌を入れた味噌汁を煮立たせてしまい、吹きこぼしそうになる久美子。

(味噌を入れたあとは、煮立たせないことが好ましい)

 

「まぁ、あんたもさ、後悔のないようにしなさいよ」

 

リビングを出る、麻美子。

 

ぐつぐつと沸騰したばかりの味噌汁なのに、なんとお玉で直接に味見してしまうほどに、動揺している久美子。

 

「熱!」

 

火傷必至です。

 

 

 

・翌日、黄前家

 

橋のカットが挟まれます。

姉の麻美子から、久美子へと。

想いが伝えられた昨夜。

姉の方から歩み寄り、橋が架けられました。

 

姉の部屋には、荷造りされた段ボールとトロンボーンのCDしかありません。

 

「お姉ちゃんは?」

「今朝、向こうに戻った」

「そっか」

 

通学する久美子。

電車の中で通り過ぎていく景色。

しかし、見えているのは風景ではありません。

 

電車は久美子を過去へ運ぶ、タイムマシン。

流れる景色のように、電車の揺れと共に時間が戻っていきます。

そして、あの頃の思い出に帰りつく、久美子。

 

 

吹いて、とねだる幼い久美子。

 

「もう一回、もう一回だけ」

「しょうがないなぁ」

 

 

「うるさいって言ってるでしょ」

 

 

「私ね、あんたのことうらやましかった」

 

 

「ホントにやりたいの?」

「うん、やりたい。

 お姉ちゃんと一緒に吹きたい!」

 

 

気づくと電車の中、人前なのにもかかわらず、泣いてしまっている久美子。

 

思い出がよみがえり、溢れ、涙までもこぼれ出す。

それほどに寂しく、やっとそれに気づく。

 

「私も、寂しいよ」

 

久美子が楽器をはじめたのは、「お姉ちゃんと一緒に吹きた」かったから。

 

それがいま、号泣と共に思い出される。

 

けれども……

 

すでに姉との想いが果たされる可能性はありません。

姉は新しい世界へと、旅立ったあと。

 

ふたたび楽器を手に取ることが仮にあるとしても、それは久美子とは熱量の違う、別のものでしょう。

いえ、覚悟を持って進む姉には、そのような余裕はないはずです。

 

果たされなかった想い。

「お姉ちゃんと一緒に吹きたい!」

 

その後悔はここから先、この物語において久美子を動かしていく大きな原動力となっていくのです。

 

 

*父親の出張前日、姉を除いた黄前家の面々が集まったときにも、久美子は自室の扉を開けて過去に戻ります。

しかし、そのときは姉の麻美子とのわだかまりは、いまだ解決されていませんでした。

よって久美子は思い出したくないことを思い出さないように、バタンと扉を閉めることで閉じ込めました。

わだかまりがあることを思い出すということは、当然嫌な気持ちになりますので……

 

しかし橋が架かったいま、思い出はその先の「お姉ちゃんと一緒に吹きたい!」まで、ようやく帰り着くことができたのです。