響け! 心に!!

なんで「響いたのか?」をしちめんどくさく考えてみる、メンドウな人の考察。アニメ中心考察予定です。

劇場版 響け!ユーフォ感想考察 届けたいメロディ~2人の姉~

 

  • この記事は、作品の具体的な内容に、深く、大きく関わります。

  「バレは困る!」という方は、残念ですが視聴後にご足労いただければ幸いです。

 

  • セリフはすべて聞き起こしです。

   間違いもあるかと思われますが、ご容赦ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あすかがいなくなるという混乱がありましたが、北宇治の吹奏楽部はたしかな成果を手に入れました。

 

部長の晴香の成長。

晴香のお願いに応え、1つにまとまりを取り戻した部員たち。

そして駅ビルコンサートの成功。

 

コンサート後の快晴の空は、まさにその成果を称えるものでしょう。

 

空模様とは、晴れることもあります。

ですが、決してスッキリとした晴ればかりではないのです。

 

 快晴の空のあと、どんな天気が待っているのでしょうか?

 

 

 

 

・あすかの部屋

 

快晴のコンサートの次は、しとどに降る雨。

成果で上げたら、そのあとは下げます。

 

 

夜。

窓に映る水滴、天気は雨。

優しい雨垂れ。

 

思い出のノートを、カタログを、眺めるあすか。

カタログには銀のユーフォと、金のユーフォが並んでいる。

それを見て、かわいい後輩を思い出し、やわらかに微笑むあすか。

 

 

 

・久美子の部屋

 

やはり雨だが、こちらの雨音は激しい。

おなじ雨ですから、だいたいおなじ時間。

あすかの部屋と、久美子の部屋(家)の様子は、違います。

 

テスト勉強にてこずる久美子。

数学の問題が解けないようです。

 

どうやらリビングから、言い争う声が聞こえてきます。

 

部屋のドアを開けた先、黄前家の中も土砂降りの様子。

 

濡れた鞄。

濡れたサンダル。

濡れた廊下。

濡れた傘。

 

 

 

びしょ濡れの麻美子が、リビングで叫ぶ。

 

「久美子みたいに部活を続けたかった。

 トロンボーンだって辞めたくなかった!」

「そこまで思っていたなら、大学入る前に言うべきだったんじゃないか」

「言えない空気つくったの誰よ」

「たしかに父さんも母さんも、お前に負担を強いてきたかもしれない。

 だが、それでも大学に行くと決めて受験したのはお前自身だ。

 もし本当に辞めるなら、この家から出ていきなさい。

 生活費も美容師になる費用も、自分でなんとかしろ」

 

「本気なら覚悟を示せ」

 

麻美子が突然、美容師になりたいと言いだし、揉める親子。

 

騒動ののち……

ほつれ髪で椅子にうなだれる失意の姉に対して、なぜか久美子までが、追い打ちを掛けるかの如く、冷たく言葉を叩きつける。

 

「お姉ちゃん、大学辞めるの?」

「辞めたら意味ないじゃん!!」

 

強い口調で責める久美子。

 

「あんたには関係ない」と立ち去る姉に、過去の記憶がリフレインする。

幼い久美子は言う。

 

「おねえちゃん、なんで辞めちゃうの」

「別に」

「わたし、お姉ちゃんといっしょに吹きたい」

「うるさい」

「ねえおねえちゃん」

「うるさいって言ってるでしょ!

 次に変なこと言ったら、あんたの口縫うからね!」

 

 

 

・学校の廊下、水飲み場のシーン

 

学校の水道で水を汲む久美子のもとへ、秀一がやってくる。

 

思わず秀一の反対側へと、体を引く久美子。

いまだに何か意識しているようだ。

 

「麻美子さん、大学辞めるのか?」

 

「知らないよ!

 お姉ちゃん、大学行ってからほとんど話してないし」

 

 

 

・音楽室のシーン

 

「田中あすか、帰還しました!!」

 

珍しくあらわれた、あすか先輩。

心配して取り囲む部員たち。

 

久美子の隣の席へ、座るあすか。

 

「おはよう!

 どう? 調子は!」

「ぼちぼちです」

「相変わらず黄前ちゃんは黄前ちゃんだね」

「どういう意味ですか?」

「褒めてるよ、いちおう」

 

ほかの部員と違い、心配の声を掛けない久美子。

あすかの質問に、「心配してましたよ」、「来てくれてよかったです!」、というようにはせず、聞かれたことへの答えだけ。

「(調子は)ぼちぼち」と返すだけの、そっけない久美子。

あすかは「ぼちぼち」が物足りなそうな様子です。

 

 

 

あすかは久美子と吹きたかったのです。

 

あすかは実の姉の麻美子とは違います。

しかし、部活においてはかわいい妹の成長を見守り、それを導く。

まさに『姉の役割』です。

入学以来、久美子のユーフォニアムの成長を間近で感じています。

 

低音パートの仲間としての日常。

「田中さん1人でやってください」と、なかば死刑宣告をされたとき。

「安定感が出てきました」と、合宿で褒められたとき。

 

おなじ楽器で、となりの席で。

 

良い時も悪い時も一番近くで、見つめ、聞いていたなら、それは特別です。

さきほど雨のシーンでも、ユーフォニアムのチラシを見て久美子を思い出していました。

 

つれない「ぼちぼち」という答えでは、さみしすぎます。

 

 

 

一方の久美子は……

あすか先輩と、重なる姉の姿。

どうしようもない不安。

「ぼちぼち」とは、精一杯のつよがりか。

 

 

 

・音楽室の倉庫

 

「あの……

 あすか先輩、辞めないですよね?

 辞めない、ですよね。

 辞めなっ――」

 

口を縫う、もとい、指で押さえて言えなくする、あすか。

 

「あんまりしつこいと、その口縫っちゃうよ」

 

姉とおなじように『辞めてしまうのではないか?』と、不安に駆られる久美子。

姉とおなじように、『口を縫う』といって、久美子を黙らせるあすか。

 

「そうだ、黄前ちゃん。

 中間大丈夫?」

 

あすかの家で、数学を教わることになります。

今回は偶然ではないが、あがた祭りのときのような急展開。

 

 

 

先輩のあすかは、自分を慕ってくるおなじユーフォニアムを吹く妹分の久美子を無下にできません。

自分の部屋で思い出すほどに、気に掛けているのです。

 

さらに、それだけではありません。

たんなる妹分、低音パートの仲間……

それだけではないのです。

 

あすかにとって久美子は、明確にほかの部員たちとは違うのです。

ほかの部員のように、ただ心配してくるだけの存在ではありません。

 

黄前久美子とは、田中あすかにとって自分の本心を告白させる存在です。

 

「正直言って、心の底からどうでもいいよ。

 誰がソロとか、そんなくだらないこと」

 

「私はね、好きなんだよ。

 コンクールなんてどうでもいいって思えるくらい」

 

そう、一貫して『どうでもいい』と言っているのです。

それはただ投げやりではなく、別の大事なことがあるから。

 

誰がソロであろうとも。

コンクールがどうであろうとも。

 

『どうでもいい』理由を語るべき相手は、その言葉をあすかから引き出してしまった久美子以外に、存在しません。

 

もしこれを誰彼の区別なく、無制限に喋りまくっていたらどうなるでしょうか?

個人差があるにせよ、一生懸命に取り組んでいるはずの部活動。

それについて、「どうでもいい」を連発するのです。

 

部活でも、学校でも、仕事でも……

あまりにやる気のない発言を連発する人とは、距離をとって近づきたくないと感じるのが自然でしょう。

 

そういう人と一緒にされたくない。

トラブルになりそうだから避ける。

集中力がなくて、事故を起こしそうで嫌。

 

 

そんな人物が副部長になることがあるでしょうか?

ドラムメジャー、入学式や文化祭の指揮者。

それを任されるでしょうか?

 

そんなはずがありませんよね。

 

久美子だって、混乱していました。

「あすか先輩は、わからないよ」

 

こうした危険な秘密の本心を語るのは、限られた相手だけのはずです。

あなたもそうではないでしょうか?

 

するとやはり黄前久美子とは、田中あすかにとって自分の本心を告白させる、ほかには存在しない特別な何かなのです。