響け! 心に!!

なんで「響いたのか?」をしちめんどくさく考えてみる、メンドウな人の考察。アニメ中心考察予定です。

色づく世界の明日から 12話感想、考察

紙飛行機を追った先で、会いたい唯翔に飛び込んだ瞳美。

先週の続きからはじまります。

 

 

ベンチに腰掛ける2人。

唯翔は瞳美の手を握ります。

 

「また消えるの、心配だから」

「私、帰りたくない」

 

未来の世界のかつての瞳美……

それは色づくことのない暗い世界の住人。

 

「もしも私が魔法使いじゃなかったらこんなことに——」

「——そしたら、会えなかったよ。

 俺は瞳が魔法使いで良かった」

 

瞳美が魔法使いで、この時代の世界から消える存在であるとしても、瞳美を無条件に肯定する唯翔。

唯翔は瞳美にとって、自分を引っ張ってくれる存在です。

 

 

 

翌朝。

光が溢れるひなたへと手を差し伸べる瞳美。

 

「残された時間は少ない。

 でも……」

 

そして伸ばした手だけでなく、体ごとひなたへと進み出る瞳美。

 

「ちゃんと見つけたい。

 私がここに来た意味を」

 

 

 

ただみんなと離れて暗い未来の世界に戻るのではなく、この世界に来た『意味を持って帰りたい』。

そう思わせてくれたのは、唯翔が手を握ってくれたから。

そして『意味を持って帰りたい』ならば、未来の世界で起こったようなことではいけないのです。

母のように黙って去って行くべきではありません。

 

意味を自分から、進んで取りに行かなければならないのです。

そのためにいま、するべきこと……

それは文化祭をみんなと楽しむことです。

 

 

 

ついに南輝祭当日。

 

「まだ気持ちの整理はついていないんですけど、文化祭の二日間はみんなと過ごしたいと思っています」

 

「みんなで目一杯楽しもう!」

 

『MSB』

 

イマイチなセンスのお揃いのTシャツの登場です。

視聴者の気持ちを十二分に代弁する千草。

 

 


ここからは文化祭の光景です。

それは、たとえるなら収穫祭。

 

繰り返し繰り返し、何度も何度も提示されてきた、それぞれの努力が結果として見られます。

 


勇気を出して自分で営業し、ポストカードを手売りすることに成功したあさぎ。

 


「魔法が上手くなったね。

 こっちに来たばっかりの頃は、何もできなかったじゃん」

「未来の大魔法使いが太鼓判押しちゃうよ!

 さすが私のお孫ちゃん」

 

琥珀に魔法を褒めてもらう瞳美。

 


「私たち絵の中に入ってたんですけど、アレ先輩が書いたって聞いて!」

「展示してる作品も見たんですけど、すっごい感動しちゃって!!」

「サインください!!!」

「これからも応援してますから」

 

いきなりファンができて、「ただ名前を書くだけ」という、慣れていないことがバレバレなサインをする唯翔。

 


少しずつ育ててきたことの、果実を得る3人。

 

 

 

「すごい行列ね」

 

個展をひらいていた、OBの先輩がやってきます。

 

「たくさんの人に喜んでもらうのって、やっぱり嬉しいです」

「誰かのために書くのも、すごくいいことだと思うよ。

 これから君の絵に、良い影響を与えてくれるんじゃないかな」

「誰かのため……」

 

思い出される、幼い瞳美の姿。

 

 

 

次々に訪れる部員の家族。

胡桃の姉、唯翔の母、あさぎの父。

ちょっとした授業参観です。

 

 

 

「なんだか大成功だったんじゃない!

 絶対2日目はもっと人くるよ。

 リピーターもいるだろうし」

 

好評のうちに1日目の終了です。

 

「ねえねえ、みんなで記念撮影しようよ」

 

部員たちの一体感。
いい光景ですね!

 

 

 

月白家の夕飯のテーブルは、色づいています。

豪華でカラフルで、手の込んだ料理で埋め尽くされていて……

 

「瞳美とゆっくり食事できる最後の夜でしょう。

 せめて今日位は料理の腕をふるわないとね」

「ありがとうございます。

 あの、本当にみなさんにいろいろお世話になって」

「ハハッ、これくらい当たり前だよ。

 水臭いなぁ」

「それより琥珀。

 あなたは明日ちゃーんと時間魔法で瞳美を送ってあげてよ」

 準備は万全なんでしょうね?」

「わかってる」

 

うつむく琥珀。

 

「大丈夫よ、琥珀なら。

 なんたって私の孫だもん」

 

 

 

このあたり、『おばあちゃんが孫を励ます』という方向は、おなじ構造ですね。

琥珀が瞳美を励まし、琥珀はおばあちゃんに励まされます。

 

困ったり、弱ったりする琥珀を瞳美が励ますことはありません。

時間魔法で不安になるときは、毎回おばあちゃんが声をかけてあげていました。

帰り道も琥珀から瞳美の手を握りました。

ここでもおばあちゃんが琥珀の手を握っています。

 

 

 

話が逸れますが、瞳美の世界は基本的に受け身です。

それは分かり易すぎるほどに。

 

追いかけて傘を差し出したのも唯翔です。

幼い頃の瞳美の世界で、絵の中に描かれた母娘の断絶の川に「渡れるよ」と絵を書いて渡したのも唯翔です。

この話の冒頭で瞳美の手を握ったのも唯翔から。

このあとのおばけ屋敷で手を引くのも唯翔です。

 

それだけに前回の話で紙飛行機に『会いたい』と記して、走って唯翔の胸に飛び込む。

そのシーンに大きな衝撃があるのですね。

瞳美から飛び込んだ、動きのあるこのシーン。

大きなインパクトがありました。

 

あったのですが……

よく見ていくと、見た目ほど自主的なシーンではありません。

そもそも会いたいと書いて手紙を送ると言う行為は、そこに「相手から会いに来て欲しい」と言う期待があるように思います。

 

「それは言い過ぎだよ……」と思う方がいるならば、こう言い替えてみましょう。

 

願いが叶うなら、会いたい

会えるなら会いたい。

 

それは『どうしても会いたいんだ!』と動き出してしまうような強い思いとは、やはりちょっと違うと思うのです。

 

今度は自分で自分に、知らずのうちに魔法をかけて飛び込むのではなく、瞳美から唯翔

の手を握りにいくような、自発的で主体的な行動が見たいし、ラストの前にはそういう

シーンがあるのではないかと勝手に期待しています。

 

 

 

「帰る用意できてるの?

 明日は後夜祭のあと、そのまま出発するんでしょ?」

「荷物は持っていけないので、置いて行きます」

「明日があるんだから、帰る帰る言わないでよ!」

「そうだよなぁ、大事な家族なんだから。

 せっかくの料理だ、早く食べよっか。

 いただきまーす」

 

そこへチャイムが鳴り、完成した星砂時計が届けられます。

 

 


所変わって、唯翔の部屋。

 

「いま、俺にできること」

 

タブレットに向かって描き始めます。

それは先輩が言っていた、「誰かのために描くこと」。

瞳美のための絵ですね。

 

 


タイトルが。

 

光る光る

この一日が

光る

 

 


「ヤバイヤバイ!

 すごい並んでる」

 

2日目の文化祭は、昨日の評判が人を呼んで大行列です。

そんな忙しい中でも、瞳美を、唯翔を想う部員たち。

 

「自由時間?」

「瞳美ちゃんと唯翔先輩に、少しだけでも、文化祭回ってもらいたいなって。

 余計なお世話かもしれないけど」

 

「翔くんが嫌なら、やめます」

「いいんじゃない」

 

「知ってたんだな。

 悪かったな気を遣わせて」

「誰かを好きになって、悪いなんてことないです。

 ちゃんと伝えた将君のこと尊敬します。

 いつか私も、自分に自信を持てるようになったら……」

 

あさぎの「いつか」は近そうです。

 

 

背中を押されて教室を追い出される、瞳美と唯翔。

 

 

「結局、唯翔先輩ってどう思ってるんだろう?」

「あいつ、余計なことを考えてそう」

「余計なこと?」

「『帰る前に気持ちを伝えたって、きっと相手に迷惑だろう』とか」

「あぁ、当たって砕けるのもカッコいいですよね、先輩。

 潔くって、俺は好きです」

 

将と千草が唯翔のことを語ります。

 

「2人には時間がないから、幸せになって欲しいんです、少しでも。

 これからの分も」

「その気持ち、伝わるといいなぁ。

 誰か見ててくれたとか、好きって言ってくれたとか。

 そういうのって、思い出すたびに、宝物みたいに自分を支えてくれるからね。

 しんどいとき、地味に効く、クスリ!」

 

姉と比べてしまい、胡桃がへこんでいたとき……

合宿の夜に千草と橋を駆けた時の回想が挟まれます。

 

「どれもいい表情してるでしょ。 何もなくてもいいんじゃね。

 こんだけいい顔できるんだから」

 

「好きな度合いなんてみんな違うし、ほかにもっと好きなものできるかもしれないし、そんなの、いますぐ決めつけなくてもいいじゃん!

 焦んなくても大丈夫っすよ、先輩なら」

 

色づく世界の明日から 7話感想、考察 - 響け! 心に!!

 

 男子チームのあとは、女子チームの番。

あさぎの気遣いに賛同する胡桃。

さらに胡桃が語り、あさぎが経験者の言葉をありがたーく頂戴します。

 

男子チームも女子チームも、後輩が先輩を慕う様子が描かれていて、おなじ構造ですね。

 

 

 

送り出された2人は、強引な勧誘によっておばけ屋敷に入ります。

 

骸骨に驚いて唯翔にしがみつく瞳美。

 

「たぶんこっち」と手を引いて、暗闇から光あふれる出口へと導く唯翔。

 

「話したかった。

 あの日からずっと、大切な人。

 明日から、遠くなる」

瞳美のモノローグ。

 

 

 

このおばけ屋敷は短いシーンですが、過去の世界の旅のダイジェストでしょう。

突然何もわからない暗闇のような過去の世界に放り込まれ、辿り着いた唯翔の部屋。

唯翔の絵にどうしてか色が見えて、それをずっと追ってきた瞳美。

前で手を引く唯翔に、追いかける瞳美。

その旅も、終わりが間近に迫っています。

 

 

 

 

おばけ屋敷から出て、並ぶ2人。

どちらからともなく手を放します。

廊下は左右に広がり、正面には窓。

2人が前へと進む道はありません。

 

「ほかも見てく?」

「楽しかったから。

 戻らなくちゃ」

 

2人に迫る別れのリハーサルです。

この別れ方で、いいのかな?

 

 

 

琥珀の家族も訪れ、別れを済ませます。

南輝祭も終わり、後夜祭へ。

 

文字通りの、打ち上げ花火。

琥珀と共同作業です。

 

1話では、花火を見にクラスメイトたちと階段を上っていくことはできませんでした。

大勢の楽し気な人の中で、暗く寂しそうだった瞳美。

この後夜祭では、仲間を得て盛大な花火を打ち上げる、まさにその中心にいます。

 

屋上で、仲間たちと共に……

瞳美はこれまで登れなかった場所に、過去の世界に来ることによって辿り着くことができました。

 

だから……

色づいていくのです。

 

「みんなの役に立てて、すごく嬉しかった

「俺達も楽しかった。

「忙しかったけど、面白かったし」

「ホント、2人の魔法のおかげ」

 

ウルッとする瞳美。

 

「ドキドキするの、嬉しくて暖かい。

 なつかしい気持ち」

「それってしあわせ、なんじゃない?」

 

ハッと見上げる瞳美。

その目に映る大空には、色づく花火が!

 

「色が、見えるの。

 違う、ぜんぜん」

 

号泣して喜ぶ瞳美。

 

 

 

最後の別れ、儀式へと向かう部員たち。

 

瞳美はふたたび色が見えなくなります。

別れを直前にして、幸せとはちょっと違う状況です。

 

 

 

「違う、わたしが帰りたくない本当の理由は……」

心残りを自覚する瞳美。

 

ステージの上では琥珀と瞳美が。

放射状に伸びるレンガの敷石が5本。

そのの上に、千草、胡桃、唯翔、あさぎ、将が並びます。

 

「これから、時間魔法の儀式をはじめます。

 みんなも協力してくれる?」

 

「瞳美、心の準備はいい?」

 

「心残りがあるとすれば、それは1つだけ。

 いつまでも消えない、恋という花火」

 

 

 

瞳美の心残り。

昨夜描いたはずの、唯翔の絵。

時を超える2人の出会いと恋は、いったいどんな結末を迎えるのでしょうか?

 

色づく世界の明日から 11話感想、考察

変化とは、必ず抵抗を受けるものです。

ストーリーとは、はじめと終わりで変わっていく変化のことです。

 

過去の世界へと、バスに乗ってやってきたはじめの頃の瞳美。

その様子はビクビクオドオドで、イラッとする人もいたことでしょう。

それほどに儚く不安げなキャラでした。

花火のように眩しく煌めく色さえ見えず、魔法が大嫌いで、クラスメイトとまともな会話1つもできない……

 

……ですがそれはもう、過去のこと。

 

過去の世界にやってきた瞳美は、ゆっくりと、確実に。

存在感を持ちはじめてきたのです。

部員たちと関係を築き、将には告白までされました。

それによってできた、あさぎとの軋轢もちゃんと向き合って和解。

唯翔とはトラウマの開示を互いに行い、衝突しながらも成長し合います。

 

その存在感はいま、魔法写真美術部の枠を越えようとしています。

マジカルアートイリュージョンという、絵の中に入って体験ができるという前代未聞の大仕掛け!

これが成功すれば、世間の話題、大きな噂になること間違いなしです!

そしてそれは、瞳美という個人の変化に止まらない、大きなインパクトになることでしょう。

 

 

 

学園祭を目前にして、校内ではあちこちで準備が進んでいます。

琥珀が自信満々にアピールするほどに、不安しかない先生たち。

 

「名付けて、マジカルアートイリュージョン!!」

「あんまり、無茶しないようにお願いしますよ」

 

 

 

魔法写真美術部でも、おなじように準備が進みます。

ここからはこれまでの変化が語られます。

 

「先輩が絵のこと相談してくれるなんて、初めてじゃないですか?」

「絵をやってくって決めたから」

 

「そこで一緒にあさぎのポストカードも販売したら?」

「うえっ、無理!

 ……じゃなくて、わたしも頑張ります!」

 

「私たちも一緒に、魔法の練習しておかなくちゃね、瞳美」

「頑張ろう!」

 

進路に迷った唯翔、踏み出す勇気の持てなかったあさぎ、魔法なんて大嫌いだった瞳美……

それぞれの物語での、それぞれなりの変化が順に提示されました。

 

帰る時間を迎え、片付け始める面々。

瞳美を追いかけて、あさぎが暗室へ。

 

「あれ?」

「どうしたの、あさぎ」

 

「突然、いなくなっちゃったんです」

「見間違いじゃないの?」

「ほれ、いるじゃん!」

 

「瞳美!」

「わたし、何してたんだっけ?」

 

「一瞬、時間が飛んじゃったみたい。

 変なの」

 

「時間が飛んだ……」

琥珀は1人だけ、部員たちとは違う反応です。

過去に飛んできた瞳美の時間が飛ぶ。

それはこれまでになかったことです。

 

 


帰り道。

届いたメールを見て、「時のあわい」と心の中でつぶやき、駆け出す琥珀。

 

*『あわい』とは、事と事との時間的なあいだのことのようです。

物と物、人と人、色の配色や取り合わせ……

などもあるようですね。

 

 

 

駆け出した琥珀のついた先は、魔法書を借りた店。

星砂時計をつくる仲介をしてくれた人のようです。

 

事情を話す琥珀。

 

「永続的な拘束力はなく、必ず歴史修正力の影響を受ける。

 それは対象となる人や物を旅先から時のあわいに引き込もうとする形で現れる。

 兆しが見え始めたら、早く手を打たないと時のあわいに閉じ込められてしまうんだそうです」

「できるだけ早く、元の時間に返してあげたいんだね」

「でも私、大きな時間魔法なんて、使ったことないんです。

 私がやらなきゃいけない。

 瞳美を助けてあげたいのに、できるかどうか不安で」

 

不安を訴える琥珀に、店主はヒントを与えます。

 

やり方がわかってるなら、あとは魔法力。

魔法使いと協力し合う。

できるだけ純度の高い星砂を。

 

 

 

どうやら時間魔法は、単純に効果切れで元の世界に戻れる簡単なものではありませんでした。

もっとずっと、危険度の高いものだったようです。

 

そうしたことを知りながら、過去の世界に送り込んだのは未来の琥珀ですから、責任を感じて不安や焦りを感じるのは頷けます。

ましてや1度も使ったことのない大きな時間魔法に、これからトライしなければならないのですから、プレッシャーです。

 

そうした琥珀の不安や焦りと、噛み合わないのがいまの瞳美です。

 

 

 

「帰るっていつ?」

「できれば早いほうがいいって」

「そんな急に、みんなとお別れだなんて」

「気持ちはわかるよ。

 でも早くしないと、瞳美がどうなるか」

「戻ったらもう、色を見られることもないのかな」

「ねえ瞳美!」

 

肩を掴む琥珀。

 

「私の話聞いてた!?

 このままだと瞳美が危ないの!

 時のあわいから戻れなくなって、消えちゃうかもしれないんだよ。

 私は絶対そんなの嫌だから! 絶対に!!」

 

 


自分の命や安全ということの心配より、この世界のみんなと会えなくなることを気にする瞳美。

 

瞳美にとってはそれは当然の心配です。

なぜならば、瞳美にとって未来の世界とは、帰りたくなるほど魅力的なものではなかったのです。

 

色も見えず、魔法が大嫌いで、友達もいなくて、うつむきがちに歩いていた世界。

 

その世界とは、いまの瞳美に比べたら、まるで死んでいるような世界に見えてしまうことでしょう。

未来の世界に帰っても唯翔はいませんし、色は見えません。

親しくなった部員たちもいません。

琥珀の存在は『おばあちゃん』ですから、友達とは言えないことでしょう。

 

 

 

「やっと友達もできて、唯翔さんの絵に色も見えて、それに……」

 

唯翔との想い出が回想されて、瞳美が唯翔を意識していることがわかります。

 

琥珀は父親と夜の海へ。

時間魔法に必要な星砂を集めますが、そこには厳しい現実が……

 

「これじゃ、全然足りない」 

 

 

 

翌日も学校では学園祭の準備が進みます。

台風接近のため、学校の放送で下校が促されます。

 

唯翔と下校する瞳美。

 

「この傘見ると……

 思い出すんです、あの日」

 

逃げ出した瞳美が落とした傘を、唯翔が追いかけて渡してくれたときの回想。

 

「これから雨が降るたびに、思い出すんだろうな、私

 忘れない、唯翔さんの……」

 

ふたたび、忽然と消える瞳美。

 

琥珀は部員達に瞳美に迫る危険を告白します。

1度ならず2度まで……

もはや隠せる状況ではありません。

 

「早くしないと、瞳美が時のあわいに引き込まれて、2度と戻ってこれなくなるかもしれない!」

 

必死に探す部員たち。

それでも見つかりません。

 

「昨日瞳美が消えたときは、おなじ場所にまた立ってたんだよな!」

 

駆けつけると、まるで葬儀を思い出させるような花々に囲まれ、瞳美は眠っていたのです。

 

 

 

瞳美は琥珀の家へ。

心配する琥珀と、琥珀を心配する琥珀のおばあちゃん。

 

「みんなの力を借りればいい。

 瞳美を助けたい人たちと協力すれば、大きな魔法をきっと成し遂げられる。

 あなたならできるわ、琥珀」

 

琥珀は励まされます。

ここでも古本屋の店主とおなじように、おばあちゃんからもアドバイスを受けます。

なにかを成し遂げるには、たいてい条件があるのです。

年長者や権威からの協力や助言。

みんなの協力。

そして本人の努力です。

 

 

 

右下がりの不穏なタイトル。

 

第十一話

欠けていく

 

 

 

ベッドの上で目覚める瞳美。

左腕にはリボンが巻かれています。

それは琥珀の腕へとつながって縛られているよう。

 

瞳美がどこかへ行ってしまわないようにという、不安な琥珀の気持ちの表れでしょうか。

 

瞳美は自分が消えたということについて、なにも覚えていません。

 

「大事な話があるの」

 

 

 

学校で琥珀はみんなを集め、決意を語ります。

ここでの話は、目覚めた瞳美にした『大事な話』とおなじ内容でしょう。

 

「瞳美を未来に帰す時が来たんだと思う」

 

「俺たちにできることは?

 瞳美のためだろ

 手伝うよ」

 

星砂集めを頼む琥珀。

新月の夜、瞳美を送り帰すことに。

 

「それって、いつ?」

「明後日、後夜祭の夜」

 

明確にこの世界の終わる時間が示されます。

 

 

 

「明後日って、早すぎませんか?」

 

あさぎはあまりにも突然すぎて、別れを受け入れられません。

 

『安易に戻ってはこれない』ことが琥珀から語られ、本当に最後の時間だと告げられました。

辛いことを受け入れるには、個人差がありますが、時間も必要なものです。

受け止めきれず、1人部室から去るあさぎ。

 

 

 

夜になり、瞳美のシーンへ。

瞳美は心配してくれる家族の温かさに触れます。

 

一方の海岸では、星砂を集める部員の元へあさぎが駆けて来ます。

『瞳美のために』と1つになる部員たち。

 

「明日は絶対に、泣かないように!

 最高の文化祭になるように!」

 


瞳美は海岸まで来て、それを覗いています。

しかし、みんなの前へと顔を出すことができません。

なによりも瞳美自身が、帰る覚悟ができていないのですから。

 

「わからない、まだ、どうしたらいいのか

 みんなが笑ってくれても、私まだ、全然……

 新月が、来なければいいのに」

 

立ち去る瞳美。

 

 


みんなの協力で集めた星砂を店主に渡し、星砂時計の目処もつきました。

こうして『瞳美以外の準備』は整ったのです。

 

 

 

準備のできていない瞳美は、屋根裏部屋にこもっていました。

唯翔の部屋の灯りが灯ったのを見るや、紙飛行機を追って魔法で飛ばします。

 

飛行機が届いたことを、灯りを点けたり消したりする事で確認し合う2人。

 

2人はもう、動き出さずにいられません。

 

瞳美は机に向かい、言葉を記して2通目を飛ばします。

しかし飛行機はなぜでしょうか?

唯翔の部屋へと想いを乗せて、真っ直ぐに飛んではいきません。

 

慌てて紙飛行機を追いかける瞳美。

 

紙飛行機は唯翔の部屋ではなく、唯翔自身へと向かっていたのです。

じっとしていられずに走って来た唯翔の胸に、飛び込む瞳美。

 

「唯翔くん!」

「俺も、会いたかった」

 

やっと想いが繋がったのに、新月はもう間もなく迫って……

 

 

 

いつもと違う特殊エンドで、ドラマチックな2人の抱き合うシーンで終わってしまいました。

時間がないからこそ素直になれた、という形ですが2人に残された時間はあとわずか。

 

唯翔との別れ、みんなとの別れ、文化祭は?

そして瞳美の世界は、いったいどうなるのでしょうか?

色づく世界の明日から 10話感想、考察

将の告白による余波が、あさぎと瞳美をギクシャクさせています。

 

 

登校するなりあさぎに避けられてしまう瞳。

さらに定番の廊下の角でぶつかるシチュエーション。

 

「えと、あの、今日は天気良くないね」

 

瞳美は顔を上げて天気の話を持ち出し、あさぎはうつむきがちに立ち去ります。

 

 

 

放課後の部活。

あさぎは瞳美を避けるように、外で撮影すると言って帰ってしまいます。

それを追いかける瞳。

 

昔の瞳美ならば、あっさりあきらめてしまうところでしょうが、3度目の挑戦です。

 

「あの2人、何かあったのか?」

「この男は!」

 

胡桃と琥珀の冷たい視線に、ひるむ将。

相変わらずあさぎの気持ちには気づいていません。

気づいているなら、そんな無神経な事は言えないはずでしょう。

 

 

追いかけた瞳美は勇気を出し、声を掛けます。

 

「なんか、このままじゃいけないって。

 自分勝手なのわかってる。

 でも、あさぎちゃんと話したい。

 あさぎちゃんはこっちに来てはじめてできた、大切な友達だから

 

そんな瞳美の言葉に歩み寄り、「甘いもの、食べに行きませんか?」と誘うあさぎ。

恋の話ではありますが、その内容は残念ながら甘いだけの話ではありません。

なので、酸っぱいベリー系のパフェです。

 

わかっていても怖くて踏み出せないあさぎは、自分の気持ちを瞳美に打ち明けます。

 

「将くんが瞳美ちゃんを見ているって気づいたとき、悔しかったです。

 私じゃないんだって。

 でも当然ですよね。

 だって私は何もしてこなかったから。

 怖くて踏み出せないんです。

 本当は瞳美ちゃんに嫉妬する資格なんてなくて……

 ごめんなさい」

 

涙ぐむ2人。

 

「ううん、私も。

 相談に乗ってくれてありがとう。

 うれしかった」

「私も追いかけてきてくれて、ホントは嬉しくて」

 

すべてを将のせいにして、一気にやけ食いするあさぎ。

さらに「カラオケ行きたいです!」とリクエスト。

琥珀に胡桃も、カラオケに合流します。

カラオケはもはやあさぎのストレス解消というより、琥珀と胡桃の大盛り上がりショー状態でした。

 

 

 

さて、あさぎと瞳美が仲直りしたところで、次の話題へ。

 

「魔法部は、絵の中にお客さんを招待する素敵なイベントをやろうと思いまーす!」

 

イベントを提案する琥珀の後ろの黒板には、再び『神奈川沖浪裏』が。

さっそく琥珀の大浪に巻き込まれる唯翔。

 

ファンタジー? 非日常?

うさぎの村、海賊船……

いっそのこと全部いれて!

 

結局、唯翔が絵を描くことになります。

 

 

 

帰り道の琥珀と瞳。

 

「あのイベントね、瞳美の話がきっかけで思いついたの」

「絵の中なら瞳美も、みんなと同じ景色を見られるよ!」

「その魔法、私にも使えるかな?」

「なに言ってるの!

 瞳がメインでやるのよ」

「ええっ、そんなの無理!」

 

唯翔に続き、琥珀の浪に巻き込まれる瞳美。

 

「絵の中に入る魔法は難しいんだよ。

 描いた人の心に触れる力が必要だとも言われてる。

 きっと瞳美は、これ系の魔法が得意なんだと思う」

 

魔法が嫌いで、たいした魔法も使えないと思っていたのに、『琥珀にさえできないことができる』という驚き。

さらに「これ系の魔法が得意なんだと思う」と言われたら、きっと嬉しいことでしょう。

 

「いっしょに頑張ろう!」と、琥珀ににぎられた腕をにぎりかえし、「うん」とうなずく瞳美。

帰宅後も練習に励みます。

 

 

 

「良かったな。

 瞳美となんかあったんだろ?

 仲直りできたみたいで、俺も安心した」

 

この2人は、将の鈍感さにあさぎがキレて、思わず!

……ということでもない限り、なんだか関係を動かすのは難しそうですね。

 

 

 

唯翔、瞳美、琥珀の魔法部イベントの準備を頑張るシーンが続きます。

 

「はい、ありがとうございます!

 図案は今度持って行きます」

「星砂時計作ってくれるとこ、見つかったの?」

 柳堂さんが紹介してくれるって」

「琥珀!!!」

「どうしたの?」

「……できた」

 

そこにはしっかり3分で戻り、机の上にキレイに整列する紙飛行機たちが。

成功を抱き合って喜ぶ、琥珀と瞳美。

 

 

 

そして今回のタイトル『モノクロのコレクション』が。

このタイトル画面、このあとの幼い瞳美の描く絵を意識してか、右上から左下へと太く黒く塗りつぶされています。

 

 

 

「それではいよいよ、皆さんを絵の中にご招待します」

 

真っ暗な教室のプロジェクターに映された、唯翔の絵の世界へ。

 

「一応確認しとくけど、安全なんだよな?」

「一定時間経つと魔法が解けて強制的にここに戻ります。

 ずっと2人で練習を重ねてきて、いまならゾウ10頭だって大丈夫ですよ」

 

琥珀と瞳が手を握り、魔法を唱え……

いざ! 絵の世界へ!!

興奮する部の面々。

 

「みんなー

 ジッとしてたらもったいないよ!」

 

琥珀は降ってきた傘にぶら下がって、1人で飛んで行ってしまいます。

唯翔と瞳美の2人を残して、みんな世界へ飛んでいきます。

 

「色、見えるの?」

「はい、とてもハッキリ。

 私、初めてみんなと同じ色を見られたんだって思うと嬉しくて、なんだか心がザワザワしてます」

 

絵の世界を訪れたはじめのほうのシーンに、瞳の見ている景色が挿入されます。

青空、力強い山、光、星、白い雲……

ですがその手前の部員たちは、あくまでモノクロです。

絵の中に入っても、外のルールは継続中のよう。

唯翔の絵は色づいていますが、中に入った部員たちはモノクロのまま。

部員たちを感動させるような魔法が使えるまでに成長しても、まだ足りないものがあるようですね。

 

「俺たちも行こうか」

「はい!」

 

唯翔と瞳美も、世界へと旅に出でます。

 

「あれ?」

 

そうして2人で森を歩いていると、見覚えのあるものが泳いでいます。

そうです。

あの金色のサカナです。

金色のサカナに導かれ、唯翔は暗闇の中へ。

いつの間にか消えてしまう、瞳美の姿。

 

「石?」

 

消えた瞳美のかわりに、石像になった制服姿の瞳が無表情に座っていました。

その隣には、高い高い扉がそびえ立ちます。

 

大きく重い扉を引き開けて中へと踏み込むと、今度は幼女の瞳美がいます。

そのまわりには、散らばるモノクロの画用紙。

まったく知らない人だったら、ちょっとしたホラーなシーンです。

閉ざされる扉、暗い部屋、折れたクレヨンたち、ひたすら黒を塗る幼女。

 

「お姫様、かな?

 そっちは女王様?」

「……会えないの」

 

ボソッと呟く幼い瞳美。

画用紙に描かれた2人。

片方は泣いていて、真ん中には2人の間を断絶する、大きな黒い川。

会えない2人のために、唯翔は川を「渡れるよ」と描いて差し出しますが、すべて拒絶されます。
モノクロの船、モノクロの鳥、モノクロの虹の橋……

 

「いらない」

「どうして?

 渡ってもいいのに」

「ダメ」

「どうして?」

「わかんない」

 

画用紙を差し出す瞳美。

 

「描いていいの?

 じゃあ、一緒に描こうか」

 

そうしていっしょに並んで描きはじめると、時間がやってきます。

 

プロジェクターの光を受けて、スクリーンの前ではしゃぐ5人。

かたや、暗がりで現実に戻る2人。

 

瞳美の頬には、流れ落ちる一筋が。

 

「俺、瞳美に会ったよ。

 小さな頃のひとりぼっちの瞳美に」

 

 

 

絵の世界の中で、瞳美の秘密の内面を覗いてきた唯翔。

第六話、『金色のサカナ』で行ったグラバー園の藤棚の下で、瞳美は唯翔の内面を覗き込んでしまいました。

組み合わせになるシーンで、お互いの過去を知ります。

瞳美の魔法をキッカケにして、『相手への自己開示』と『自己の再発見』が行われました。(瞳美の再発見はこのあとになります)

 

 

 

母は魔法が使えませんでした

 代々続く月白家で初めてのことだって、親戚の誰かが言っていた気がします。

 だけど私は使えて……

 ある日突然、母は出て行きました。

 どうしていなくなったのか?

 なんで私を連れて行ってくれなかったのか?

 理由はわかりません。

 きっと罰なんだと思います。

 魔法が使えた自分に浮かれて、母の気持ちにも気づけなかったから」

「そんなの、小さな子供には無理でしょ」

「それでも、やっぱり私のせいなんです。

 魔法なんてなければ」

「違うよ、魔法のせいじゃない。

 瞳美のせいでもない」

 

内罰的な瞳美。

瞳美のせいではないと唯翔は重ねて言いますが、瞳美はそれを受け入れられません。

それでも唯翔はあきらめずに語りかけます。

 

「お母さんのこと好きだからって、瞳美が耐えなきゃいけないのは間違ってる」

「やめて!」

「なにがあったのか知らない。

 知らないけど、瞳美のお母さんだって——」

「——やめてください!」


1話で過去行きのバスに乗ったときに見た、家を出る母の姿が。

 

「追いかければいいのに、できなくて。

 お母さんのバカって言えばよかった。

 私のバカ!

 私のバカ!」

 

号泣する瞳美。

  

「魔法なんて大嫌い。

 お母さんを奪ったものだと思ったから。

 ずっとずっと、嫌いだった。

 でも……」

 

 

 

『嫌いだった』と過去形になり、『でも』という逆接で終わる……

 

瞳美の子供時代のキズに、唯翔が『瞳美のせいではない、瞳美が耐えなくていい』と許しを与えました。

そのことにより瞳美自身も、過去に言えなかった『母への怒り』と、『母を追いかけられなかった』、『母に言えなかった』自分への怒りを認め、はじめて口にすることができたのです。

 

これは瞳美の過去の再発見であり、いままでと違う考え方です。

これまでは、とにかくすべて『私のせい』で『魔法のせい』という思い込みだったのですから。

 

絵の世界の中で、幼女の瞳美は黒い川を渡れませんでした。

船でも鳥でも虹でも……

渡れませんでした。

それは幼い瞳美には、『母を追いかけられなかった』ということを意味します。

 

唯翔の尋ねる『どうして?』に『わかんない』と答えた瞳美は、幼いゆえに答えを持たなかったのでしょう。

そして大きくなってからはずっと、『私のせい』『魔法のせい』と自分で自分を罰する理由を持つようになったのです。

それは『魔法なんて大嫌い』という理由そのものです。

 

そしていま、瞳美は唯翔の励ましを受けて、すべて『私のせい』というこだわりから抜け出し、スッキリして前向きになります。

 

「私は何をしに、ここへきたんだろう。
 私が来た意味」

 

サポートしてくれた唯翔と別れた瞳美は、1人で暮れていく空を見上げて考えるのでした。

 

 

 

ようやくここまで来たか、という感じです。

 

まだ「魔法が大好き」というほどになってはいませんが、唯翔や将、あさぎたちと積み重ねた出来事は、瞳美に確実に変化を生み出しました。

琥珀の星砂時計も作れる目途が立ったようですし、どうして60年前に来ることになったのか? そのあたりがわかるようになるのでしょうか。

 

残り3回ほどですが、どうなるのかな?

劇場版 響け!ユーフォ感想考察 届けたいメロディ~直接対決~

だいぶ前回から間が空いてしまいました。

残り2,3回ほどだと思いますが、お付き合いのほどを。

 

 

姉とのあいだに橋を架けた久美子が、電車の中で号泣したシーンのあとからですね。

 

 

・噓をつく、あすかを目撃するシーン

 

電車で泣きはらした、自分の顔をチェックする久美子。

そこへ聞こえてきたのは、あすかの声。

 

タイムリミットが近づき、あすかのイラ立ちは頂点に達しています。

以前の渡り廊下のときと違い、2人におどけて答える余裕は微塵もありません。

母親ほどではないにしても、乱暴な言い方で香織に反論し、黙らせてしまう。

 

「私、もう踏ん切りはついてるから。

 そのぶん受験頑張るって」

「あすか」

「本当にそれでいいのね。

 本当に、いいんだよね」

「最初からそう言ってるじゃん」

 

「どうしてあんな嘘、つくんだろう」

 

 

 

あすかは追い詰められつつあります。

いつぞやの渡り廊下のように、受け流すことが難しくなっている様子がわかります。

職員室の母親ほどでなくても、荒いセリフで、投げ捨てるような物言いになってしまいました。

 

その様子を聞いてしまった久美子は、もう我慢できません。

姉の後悔を知った久美子は、あきらかな嘘を許せません。

それは未来の後悔へ至る道です。

 

さらにこのままでは、もう1人の姉とも、一緒に吹けなくなってしまうのですから。

 

 

 

あすかは徹底して第三者の協力を受け入れようとはしません。

 

どうせ誰にも変えられない。

話したところで、どうなるの?

 

そうした想いがあすかの中にはあるのでしょう。

ですがそれは、あすかが『枷』だという母親とおなじスタイル。

 

渡り廊下の扉を閉めるという目に見える形で、協力を拒むことをあらわしたあのときのように、ふたたび香織と晴香の言葉を拒絶します。

 

良かれと思って言ってくれる他者の意見を、いったん受け止めて考えるようなことはしないのです。

それは職員室で、滝先生や教頭の言葉を聞かなかった母親とおなじです。

さらにあすかの意見をも聞かなかった母親と、おなじ構図のように感じられます。

 

あすかの中では、解決する手段は1つだけです。

それと決めたら、絶対に変えません。

 

あすかの中でも、母親の中でも、自分の答え(それがあきらめであっても)がすでにあるなら、それを変えようとはしない。

それはおなじ時間を過ごした母娘ゆえ、そういうことかもしれませんね。

 

そして、その解決策は難しそうなのでしょう。

だから余裕を失って、声を荒げてしまっているのだと思います。

あるいは母とぶつかることに疲れてしまい、投げやりになりつつあるのかもしれません。

 

ほとんど参加しないようになりつつあっても、駅ビルコンサートもそうですが、たまには参加していたようです。

母親に隠れて部活に行くことに、スリルという楽しみが……

……あるわけないですね。

参加してユーフォニアムを吹いているときいいでしょう。

ですが『母親にバレたら』と考えれば、その前後の気持ちとは、とても重たく憂鬱だと想像できます。

 

 

 

 

・数学の授業

 

またもや数学です。

授業中の久美子。

 

あすかの家で告白を聞いた久美子は、あすかの本心を知っています。

 

「どうしてあんな嘘つくんだろう。

 全国大会、行きたいに決まってるのに。

 吹きたいに、決まってるのに」

 

真っ黒焦げの鍋を力の限り洗っていた、麻美子の回想。

 

「はーい!

 じゃ―、きょうはここまで。

 テスト頑張れよ」

 

何でもないモブ教師のセリフが終わるや否や、席を立つ久美子。

何度も頑張らないと、難問は解けないのです。

あすかの教室に向かい、難問に挑みます。

 

ゴミ捨て場へ向かう途中、飴ちゃんをもらう久美子。

(卒業式直前でも、手に持って見つめているシーンあり)

 

姉の言葉を聞いた今、久美子にジッとして待っているという選択肢はありません。

 

「もしかして、ついに愛の告白?」

「違います」

 

それは当然否定されます。

愛の告白ではなく、これはお願いです。

久美子の望みでもあるのですから。

 

「コンクールに出てください」

 

あすかに向ける久美子の言葉は、果たされなかった姉との想いでもあります。

当時の幼い自分が、姉にどういったらいいのかわからず、言えなかった想い。

 

説得に掛かる久美子。

 

先輩には事情があります。

みんな言ってます。

低音パートのみんなや夏紀先輩は……

 

「久美子自身がどうか?」ではなく、外側から回り込むように攻める久美子。

そんな言葉には、あすかを揺るがす力があるはずもなく……

 

 

やがて、蜘蛛の巣にかかる久美子。

しかしその蜘蛛の巣は、ほつれて綻んでいます。

あすかの正論を破る道は、ある。

あるのだが……

 

「黄前ちゃん、そう言えるほど、その人たちのこと知ってるのかなって思って」

 

「気になって近づくくせに、傷つくのも傷つけるのも怖いから『なあなあ』にして、安全な場所から見守る。

 そんな人間に、相手が本音をみせてくれてると思う?」

 

ショックで放心する久美子。

 

「……なんだ、珍しく威勢がいいと思ったら、もう電池切れ?

 私がこのままフェードアウトするのがベストなの。

 心配しなくても、みんなすぐ私のことなんか忘れる。

 一致団結して本番に向かう。

 それが終わったら、どっちにしろ3年生は引退なんだから」

 

あすかもまた、久美子に指摘しておきながら、矛盾した返事である『みんなにとっていいこと』で返す。

本音を語らない久美子を責めたのにもかかわらず、本音ではない建前で返してしまうのです。

 

『私がこのままフェードアウトするのがベストなの。

 心配しなくても、みんなすぐ私のことなんか忘れる。

 一致団結して本番に向かう。

 それが終わったら、どっちにしろ3年生は引退なんだから』

 

父親にユーフォニアムのメロディを届けたいのに、これがあすかの本心であるはずがないのです。

フェードアウトするということは、あすかのしたいこと、望みではありません。

まわりがどうか?

他人に迷惑をかけない。

それだけです。

 

 

放心状態だった久美子を、それぞれの部員との想いが揺さぶり、目覚めさせます。

麗奈が、夏紀先輩が、サファイアが……

そして姉の麻美子と果たされなかった、「いっしょに吹きたい」という、久美子自身の想い。

 

 

「だったら何だっていうんですか?

 先輩は正しいです。

 部のこともコンクールのことも全部正しい。

 でも、そんなのはどうでもいいです。

 あすか先輩と本番に出たい!

 私が出たいんです!」

「そんな子供みたいなこと言って――」

「――子供で何が悪いんです?

 先輩こそ、なんで大人ぶるんですか

 全部わかってるみたいに振る舞って、自分だけが特別だと思い込んで

 先輩だってただの高校生なのに

 こんなののどこがベストなんですか!

 先輩、お父さんに演奏聞いてもらいたいんですよね。

 誰よりも全国行きたいんですよね。

 それを、どうして無かったことにしちゃうんですか。

 我慢して諦めればまるく収まるなんてそんなのただの自己満足です。

 おかしいです。

 『待ってる』って言ってるのに、あきらめないでくださいよ。

 後悔するってわかってる選択肢を、自分から選ばないでください。

 あきらめるのは最後までいっぱい頑張ってからにしてください。

 私もあすか先輩に本番に立ってほしい。

 あのホールで先輩と一緒に吹きたい。

 先輩のユーフォが聞きたいんです」

 

笑うあすか。 

 

「なんて顔してんの。

 ぐちゃぐちゃだよ」

 

歩み寄り、久美子の頭を撫でるあすか。

 

「うれしいね。

 うれしいな」

「先輩、顔、見てもいいですか?」

「ダメ!

 見たら末代まで呪われるよ」

 

撫でる手で頭を押さえ、あすかは顔を見られないようにします。

 

そこへ知らせが。

模試の結果で呼ばれるあすか。

渡された結果を抱きしめ、ふたたび泣きます。

 

そして力強く、歩き出すあすか。

 

 

 

ぐちゃぐちゃな顔で、肩で息をするほど昂ぶり、子供のような純粋さで泣き叫ぶ久美子。

その言葉には、本心しかありません。

 

余所行きの顔で、落ち着いた雰囲気で、建前や策を弄するような大人の言葉とは、まったくの対極でした。

 

 

 

・あすかとの対決について

 

「気になって近づくくせに、傷つくのも傷つけるのも怖いから『なあなあ』にして、安全な場所から見守る。

 そんな人間に、相手が本音をみせてくれてると思う?」

 

あすかは久美子を傷つけんばかりに、恐ろしさを感じる表情で、きつい言葉を叩きつけました。

久美子は実際にショックを受け、放心したようになりましたね。

 

これとおなじことは、過去に1度ありました。

 

あすかとの対決とは、これが初めてではありません。

家庭教師のシーンはあすかの打ち明け話ですから、これは対決ではありません。

 

では、どこでしょうか?

 

 

 

それは前作の中にありました。

 

本心を影に隠したあすかの、仮面の下の暗闇を……

久美子はチラリと、のぞき見したことがあったのです。

 

 

それは麗奈と香織先輩の、ソロパートをめぐる争いにおいてです。

ソロパートを練習する香織を、校舎の上から見つけてしまった久美子。

そこへあすかがこっそりとうしろから忍び寄り、冷たいペットボトルでおどかしてからはじまるシーンですね。

 

久美子はあすかに、オーディションのことについて聞きます。

1度は「私的な意見はノーコメンツ♪」とかわされますが、久美子は食い下がりました。

それでもなお、あすかの本心を聞き出そうとしたのです。

 

「正直言って、心の底からどうでもいいよ。

 誰がソロとか、そんなくだらないこと」

 

麗奈か香織か?

それを聞いているはずなのに、久美子はこのように返されてしまいます。

これに対して久美子は、なんの言葉も発することができません。

 

予想外の答えに絶句してしまう久美子。

「それが本音なのか、建前なのか……

 その心を知るにはあすか先輩の仮面はあまりに厚く……

 私には、とても剥がせそうになかった」

 

そんな久美子のモノローグ。

 

そして本心を聞き出したにもかかわらず、何も言わない。

何も言わないとは、それ自体が答えになってしまうことがあります。

 

あすかが語った本心に対して……

 

「冗談?」

「理解できません」

「わかりません」

「何を言ってるんですか?」

 

……こんなふうに、無言であっても返事をしているのとおなじです。

 

それを踏まえて、もう1度考えてみましょう。

 

「気になって近づくくせに、傷つくのも傷つけるのも怖いから『なあなあ』にして、安全な場所から見守る。

 そんな人間に、相手が本音をみせてくれてると思う?」

 

あすかの理解の難しい答えに対して、久美子は答えられなかった。

それは、『なあなあ』で済ませた。

聞かなかったことにした。

そう受け取れます。

 

久美子は「その心を知るにはあすか先輩の仮面はあまりに厚く」とひるんで、その真意を尋ねようとはしませんでした。

「私には、とても剥がせそうになかった」と、その発言の真意を問うたりはしないし、「どうでもいいとか、くだらないとか、そんなのは人としてあり得ません!」などと怒りをあらわすこともしません。

ただただ、本当の答えを理解しようとすることをあきらめてしまったのです。

 

かなりひどく聞こえる答えでしたから、「さらに追及して聞いたら、いったい何が起こるのか?」。

そう久美子がビビってしまうのも、たしかに理解できます。

 

 

 

しかし、一方のあすかの立場からするとどうでしょうか?

 

食い下がられたから、仕方なく(あるいは挑戦的に)本心を答えたのです。

ある意味で危険なあすかの本心を、久美子の前にさらしたのです。

 

そうまでしてみせたのに、相手はそれに反応しなかった。

その真意を聞こうともせず、知ろうと努力もせずに、黙ってしまう。

 

そうであるならば、あすかがゴミ捨て場のシーンで久美子に対して冷たい言葉を叩きつけるのも、よく理解できるのではないでしょうか。

 

久美子はかつて、あすかへと気になって近づき、「本心を教えろ」と迫りました。

だからあすかは本心を教えたのに、傷つくのも傷つけるのも怖くなった久美子は、パンドラの箱を開ける勇気を持てませんでした。

だから、『なあなあ』にして、何も言わなかったのです。

 

では、そんな人間にあすかが本音をみせてくれるのでしょうか?

 

見せるはずが、ありません。

一方的な自己開示とは、ただただ弱点を晒すだけの危険行為です。

おそらくあすかは、何も言わなかった(言えなかった)当時の久美子に、いくらか……

いえ、かなり失望したはずです。

そんな久美子の『踏み込んだのに逃げた』という行為を、『安全な場所から見守る』と表現したのではないかと思います。

 

しかし、人間とは変わります。

 

ソロパート争いのときは「とても剥がせそうになかった」ので、久美子には引き下がるよりほかに方法はありませんでした。

久美子はあすかのことをよく知らず、久美子自身の経験や成長も足りませんでした。

 

しかし2度目の対決では、久美子が久美子自身の殻を破ります。

殻を破るに十分なものを、すでに持っているのです。

 

 

十分な経験や成長。

それについてはいつも触れていますので、ここでは別の視点で考えてみたいと思います。

 

それは『人間関係とは変わるもの』だということです。

出会いからはじまるのが人間関係ですが、はじめから特別な関係とはありません。

いきなり恋人関係が生まれたり、親友になることなど、あるでしょうか?

そんなこと、ありませんよね。

 

人間関係にも成長と衰退があります。

それは変わらないもの、固定化したものでは無いのです。

関係が良くなることもあれば、逆に悪くなり、最悪は道が別れてしまうことだってあるのです。

 

あすかと久美子の関係も、ソロパート争いのときと、あすかの退部騒動のときを比べれば、全く違うものです。

 

まるで姉妹を思わせるような言動は、何度も見られます。

滝先生にダメ出しをされてクビにされたシーンも、合宿で安定感がでてきたと褒められたシーンも、誰より近くで見守っていたのはあすかでしょう。

その小節の難しさも、乗り越えようとする久美子の努力や成長も、1番よくわかるはずです。

さらに久美子は職員室での事件を目撃しています。

あすかは数学を理由に久美子を家に呼び、家庭の事情を打ち明けてさえいます。

心配して教える、家に呼ぶ。

こうしたことはすなわち、可愛がっているということです。

 

こうしたことの全てが、「互いに関係を成長させる努力をしている」ということです。

どちらかが拒んだり、望まなければ、お互いの関係とは成長しません。

 

このようにあすかと久美子のあいだにも、必要な下準備ができたからこそ、さらに内面の奥の奥……

深いところまで踏み込むようなやり取りができたのです。

 

『人間関係とは変わるもの』である。

そう言うと難しく感じるかもしれませんが、日常で、これまでの過去で、誰もが経験していることです。

単純にあらわせば、それこそがストーリーというものです。

恋愛モノでも、コンビ(バディ、相棒)が活躍するドラマでも、おなじ関係のままだったら話が成立しません。

出会い、衝突、誤解、共感、反発、別れ、再会……

変わることが救いであり、悲劇であり、歴史であり、成長です。

 

あすかと久美子は、あかの他人やただの知り合いではありません。

出会いにはじまり、さまざまな出来事を通じて、いまの2人にふさわしいストーリーを互いに築いていた。

そういうことです。

 

ゲームでいうところのフラグと表現すると、いささか軽過ぎでしょうか。

それはともかく、こうした2人の関係性の変化に、久美子の成長や姉との想いが重なって、『準備ができた』といえるでしょう。

 

 

 

あすかとの対決、その前の電車の号泣シーン……

何度見てもジーンとしてしまいます。

ホントに、いいシーンですね!

色づく世界の明日から 9話感想、考察

今回は瞳美の希望で、将と撮影スポットをめぐることになります。

 

ふと視線を落とした写真には、唯翔と瞳美の姿が。

将はあきらかに唯翔を意識してますね。

 

そして『意識されていないもの』もあります。

2人の手前にはペンギンの姿が。

このペンギン、唯翔と瞳美に被るようにして「わたしを見て!」と言っているようですね。

その姿はあさぎそのものです。

 

シーンが変わります。

あさぎはパソコンで、「どの子を文化祭でお披露目しようか迷っちゃって」と、ペンギンの写真を選んでいます。

 

「えぇ!

 全部おなじペンギンでしょ」

 

千草には違いがわかりません。

 

「うわぁー、違いのわからない男」と、胡桃のセリフ。

違いがわからないのは千草だけでなくて……

おなじ男である将も、わかっていない、いや、気づいていないというべきか?

 

ペンギンをあさぎと見立てるなら、将は大事なことに気づいていないと言えます。

同時に『あるはずの違いに気づいてもらえない』、あさぎのアピール不足とも言えるのかもしれません。

 

そしてその中には、ペンギンの区別がつかずに胡桃に叱られる千草であったとしても、きっと見れば『違いの分かる写真』が混ざっています。

 

あさぎの写真の中の将の姿。

その視線は、雄弁です。

見つめる先には、瞳美がいました。

 

 

オープニングが終わって、路面電車を待つ将と唯翔。

瞳美の変化が語られます。

 

「あいつ、最近よく笑うようになった」

「ああ、クラスでもちょっと話題になってるって、あさぎが言ってた。

 最初は人形かってくらい静かだったのにな」

 

「唯翔!

 黙ってるのも気持ち悪いから、先に言っとく。

 俺、明日、瞳美と2人で出かけるから」

 

信号で停車した車内で、「なんで俺に言うの?」と将に尋ねる唯翔。

停まった電車は、唯翔のとまどいとか、動揺といった気持ちをあらわしているようです。

 

「悩んだり迷ったりって好きじゃないんだ。

 もうすぐ引退だし、受験もあるし……

 あんま時間ないから、後悔だけはしたくない」

 

それを聞いた唯翔は、自分と比べているのか? 浮かない表情です。

 

「そうか……

 頑張れよ」


「へー、将さんと撮影会するんだ」

「2人で?」

「うん」

「そっか……」

 

琥珀は複雑です。

 

 


当日、いざ2人でデート。

将は市内撮影スポットマップまで用意して、かなり力が入ってますね。

各地を回る2人。

 

それを覗く影2つ。

胡桃と千草はこういう役が似合います。

いつぞやとおなじように、コーヒーを公園まで出前させたのでしょうか?

 

「いちおうこの事は他言無用ね」

「あぁ、あさぎ先輩?」

「気づいてたの?」

「気づくでしょ、ふつう。

 わかってないの、あの鈍感ズだけじゃない?」

 

ひどい言われようですがまぁ、仕方がありませんね。

 

 

 

1日の最後に、お気に入りの場所に案内する将。

お気に入りですから、これまでに何度も行っている場所のはずです。

それはやはり、あさぎとも?


夕日を浴びて語り合う2人ですが、将は瞳だけの事について語ります。

(厳密には「昔のあさぎ見てるみたい」と引き合いに出してはいますが)

 

「瞳美のそういうとこ、いいと思う」

 

それを受けた瞳美は、先輩が、みんなが、琥珀が……と、自分以外のみんなを挙げます。

 

「1人だったら、ずっと変わらなかった」

 

話は噛み合っているようで、噛み合っていません。

 

陽が落ちて、路面電車から降りた将は、瞳美に思いの丈を告げます。

 

「本気で言ってる。

 俺と付き合って欲しい!」

「ご、ごめんなさい」

 

逃げ出す瞳美。

 

「急に言われても、そんなのわからない」

 

『急に』、ではないと思いますけどね。

動揺して逃げ出した瞳はさまよい歩き、琥珀が心配するような遅い時間に戻ります。

翌日の下駄箱前でも、まるで壊れた人形のように靴を落としてしまいます。

さらに将がやって来て……

 

「また逃げちゃった……」

「将さんびっくりしてたよ」

「あのね、例えばの話だけど、琥珀は誰かに好きって言われたことある?」

「はい来た!

 やっぱりそういう話か」

「でも、琥珀は付き合う気がなくて、でもその人のことは尊敬してて、傷つけたくなくて……

 どうすればいい?」

「うぅん、私ならそういう話は、もうちょっと人のいないところでするかな」

 

集まる女子に、うなだれる男子たち。

 

 

 

「月白シスターズ休みだし、今日は部活解散したそうですよ」

「2人とも休みなんて、珍しいな」

「何かあったんですかね。
 気になる〜ぅ」

 

何かあったことを知っている千草は、唯翔を煽ります。

その結果、謎のお会計をかます唯翔

「100,080円になります」

 

 

 

夕方の部室で語る、あさぎと将。

 

「ここ、また行ったんですね」

「好きだからな」

「昔はよく、一緒に撮りましたね」

「俺の趣味に付き合ってくれたのなんて、あさぎくらいだよ」

「ですね」

 

「写真てさ、おなじものは撮れないんだよ。

 夜景も、いろんな人が生活していて、昨日までついていた灯りがが今日は消えてて。

 気付いたら、もう二度とは見られない景色に変わってて」

 

瞳美に逃げられ、避けられ、部活まで危うくなってしまう現状。

将は、写真のことに重ねて、不安な心中をあさぎに語りました。

瞳美はもう部活に出ないのでは?

瞳美の笑顔を見ることはないのだろうか?

 

そして、そんな将の様子がおかしいことに気づくあさぎ。

 

 

 

「なにか、考えごとですか?」

 

放課後、あさぎは黄昏る瞳美のもとへ。

瞳美もまた、様子がおかしい1人です。

 

「あさぎちゃんは好きな人とかいる?

 告白とかされたことある?」

 

思い当たることがあって、さらには瞳美のカメラの画像には、将の好きな場所の写真が証拠のように映っています。

ショックな事実に気づいてしまったあさぎは、将にずっと言えずにいる思いを、瞳美にぶつけます。

 

将の告白に続き、あさぎの明確な「好き」という想いに触れてとまどう瞳美。

 

「わからない。

 そういうの考えたことないから……」

 

瞳美が自分のことについてネガティブになり、暗転する夕暮れ。

 

「私には好きになってもらう資格も、好きになる資格もないから」

「ダメですよ! 考えなきゃ!

 その人が、かわいそうだから」

 

普段は声を荒らげないあさぎの、らしくなような強い言葉。

それは逃げ続ける瞳美の心に、力強く刻まれます。

琥珀に、あさぎに背中を押され、自分を見つめなおした瞳美。

 

 

 

「わたし、ズルいんです。

 先輩のこと傷つけたくないって言い訳して、先輩の気持ち、ちゃんと考えられなくて。

 自分のことばかり悩んで、なのに大事なことから目を逸らしてばかりで。

 わたし、わたし……」

 

「気になる人がいます」

 

正面から向き合い、握手を交わす2人。

 

 

 

……とはいっても、将はフラれた訳で。

 

「吹奏楽部、気合い入ってるね」

 

唯翔がそう評価した吹奏楽部の音出しを、叫び声で吹き飛ばします。

青春の絶叫ですねぇ。

 

 

 

スッキリした屋上と対照的に……
下の玄関口では、部活を休んで逃げようとしたあさぎは、瞳美に捕まってしまいます。

 

「わたしね、好きだったんです。

 翔くんのこと」

 

こうして鈍感ズの1人、瞳美はいまになってやっと、衝撃の事実を知ることになったのです。

 

 


さて、瞳美と将の話はこれでおしまいです。

しかし、今回の告白の余波を受ける人物が2人。

 

派手に影響を喰らった、あさぎ。

 

「すごいな、おまえ」、と自分と比べていた唯翔。

 

さて、この2人の明日はいったいどっちにあるのでしょうか?

 

 

 

では、今回はこんなところで失礼しましょう。

色づく世界の明日から 8話感想、考察 ~瞳美の見つけた、居場所~

年の瀬も迫るこの時期。

そろそろ物語の終わりが近づいてきています。

全何回か? 調べていないのでわかりませんが、今回はタイムリミットを提示するお話でしたね。

 

 

 

まずは名探偵? 迷刑事? な琥珀の登場からはじまります。

 

琥珀のはじめて魔法をつかったときの過去回想から。

まるで魔法少女(事実魔法少女ですが)な幼女琥珀が流れ星を出して、こたつの上でクルクルと楽しそうに回ります。

 

「あの日から、たった1つのことを願い続けてきた。

 わたしは魔法でみんなを幸せにしたい!」

 

その気持ちのままに、山ほどの魔法の書籍を借りて学ぼうとする琥珀のシーン。

 

……という冒頭ですから、今回はこの価値観が試されるのではないか?

そう予感させられます。

 

 

 

オープニングテーマを挟み、魔法写真美術部の部室へ。

あさぎにペンギンの色を教えてもらう瞳美。

 

どうやら部員の行きたい場所、撮りたい場所を巡っていて、まだ瞳美の希望の場所だけには行っていないということがわかります。

 

バックの黒板には、北斎の模写が。

(神奈川沖浪裏だと思われ)

 

瞳美の行ってみたいところがあれば行こう、となり解散。

 

琥珀と瞳美は帰り道、「ちょっと付き合って」という琥珀の言葉で出掛けることに。

 

急斜面、S字にカーブする路面電車や車たち。

黒板の荒波と併せ、琥珀の迷走が予感されます。

 

 

 

電車内の2人。

琥珀は調査を開始します。

 

「わたしはね、色が見えないのって瞳美が自分に魔法をかけたせいじゃないかと思ってるんだ」

「わたしが自分で?

 そんなことするわけ――」

「――わかってるよ!

 大事なのは最近、ときどき色が見えるってところ。

 つまり、魔法がほころび始めてるのかもしれない」

 

まずは手帳を片手に足で稼ぎます。

 

「この辺?

 ここって知ってる場所?

 未来でなにか特別な想い出とか、あったりした?」

 

「こうして色が見えたときの状況を丁寧に調べていけば、魔法を解くヒントがつかめるんじゃないかと思って……

 場所は関係ないのかな。

 となるとやっぱり原因は……

 あの日! 唯翔さんとなんかあった!」

 

わかりやすく、まるでタコのように真っ赤に反応する瞳美。

 

「言いづらいのはわかるけど、瞳美の魔法を解くための大事な手掛かりかもしれない。

 詳しく教えて」

 

ドラマの刑事よろしく、相手の嫌なことでも突っ込んでいく迷刑事、琥珀。

傘を受け取ったときのことがリフレインする瞳美。

 

「恥ずかしいから」

「大丈夫!

 言えるまで待ってるよ」

 

耳打ちされた内容に、ガッカリする琥珀。

 

「正直あんまり引っ張るから、キスくらいしたのかと思ってた」

 

「実験が必要ね」

 

どうやら場所から人へと、調査は変更のようです。

 

 

 

放課後。

唯翔を強引に連れてくる琥珀。

 

強制的に向き合わされ、気まずい唯翔と瞳美。

色が見えるはずもありません。

 

つづいて屋上でも。

もじもじする瞳美。

 

「唯翔くん」

「瞳美!

 顔上げて!」

「唯翔くん!」

 

「瞳美の感情が動くと色が見えるのかなぁと思ったんだ。

 けど、わたしが見てる前だと気持ちに集中できないよね」

 

「すいません。

 唯翔くんなんて」

「別にいいよ。

 瞳美なら」

 

いつぞやの屋上では拒んでいた名前呼び。

 

部活動で夜の学校へ

引用
千草と胡桃は、なんだかんだで上手く2人きりに。

 

「月白さん」で混乱、2回目です。

 

下の名前で呼ぶ、将。

唯翔は「琥珀と月白さん」、と名前で瞳美を呼ぶことを避けました。

 

「区別がつけばいいんだろ」

月白さんと言われ、瞳美はあきらかにガッカリ。

顔が真っ暗に。

引用ここまで。

 

 

2人の関係性は、当時とは少しずつ変っています。

 

 

 

今度は図書館に場所を移します。

 

唯翔のタブレットを見ながら、色が見えるもの、見えないものを確認していきます。

 

「どうかしたの?

「いえ、絵本見てて思い出したことがあって。

 小さい頃、1つだけ、色がついて見えてた絵本があったんです。

 どんな本だったのか、覚えてはいないんですが……」

 そういえばこないだの個展」

「ああ、うん」

「綺麗な人でしたよね」

「ええ!?」

 

 

 

ちょっと困った会話に最後はなりましたが、重要なことが1つ。

 

どうやら『未来の唯翔は、絵本作家ではないか?』ということが提示されます。

あるいはそれはミスリードで、『おじいちゃんの手製の絵本』ということもあるかもしれません。

まったくの想像なので詳細はともかく、前の世界、過去に飛ぶ前の世界の幼少期で、見たことがあるということは決定でしょう。

 

 

 

このあとも琥珀は努力しますが(間違った方向に)、強制的に色を見せようとする実験は失敗のようです。

 

 

 

自宅で魔法の練習を重ねる琥珀。

びっしりと書き込まれたノートも映され、琥珀が真剣に取り組んでいることが伝わります。

 

「ちゃんと間に合うといいんだけどね、その時までに。

 未来のわたしが、魔法で瞳美をこっちの時間に送ったんだもん。

 瞳美が戻りたくなったときは、わたしが責任をもって帰してあげたい」

 

「少しずつ練習はしてるんだ」

 

枯れた薔薇の花を蕾まで戻してしまう琥珀。

 

凄いですね!

琥珀がずっと練習し、研究した成果があらわれています。

 

「すごいじゃない琥珀!

 この薔薇、おばあちゃんが好きなの。

 喜ぶわよ、きっと」

 

 

 

ところで琥珀についてですが、彼女もまた、成長しているように思われます。

大がかりな魔法の仕掛けで、迷惑をかけて驚かせる、もとい、楽しませるようなシーンは帰国直後だけです。

それからの琥珀に、始末書を書くような『やらかし』はありません。

小さないたずら的な(図書館の机の下の唯翔と瞳美を無理やりくっつけるなど)ものはあります。

しかし、大騒動になるようなシーンはありませんね。

 

『わたしは魔法でみんなを幸せにしたい!』という琥珀は、これまでまわりの人たちを驚かせることで楽しませてきました。

 

はじめて魔法をつかった冒頭の回想でも、星が流れて襖(ふすま)は穴だらけでした。

帰国後は校舎に機関車の煙があふれ(瞳美のせいでもありますが)、始末書の場面では教頭先生にも担任の先生にも露骨に御土産を嫌がられ、「いりません!」と即答されています。

写真美術部の面々も、屋上で制服のすすを叩いて払っていました。

 

結果として『わたしは魔法でみんなを幸せにしたい!』というわりに、まわりは幸せになっていなかったように思われます。

むしろこれまで、まわりのあたたかさに助けられていたのは、琥珀のほうではないでしょうか?

性格や人間関係のつくり方によって、迷惑を大目に見られていたように思われます。

それは楽しませるというより、悪ノリに近かったのでは?

 

琥珀は瞳美を過去に送った張本人ですが、瞳美が過去にやってきたことで恩恵を受けています。

写真美術部という仲間を得たり、瞳美のために時間魔法の研究に打ち込んだりと、暴走しがちだった琥珀自身の魔法の力の使い方を学ぶ機会を得ているように感じられます。

 

 

 

瞳美の希望によって、撮影会がはじまります。

 

「本当にここでいいの?」

「撮るようなもの、何も無くない?」

 

「学校へ行く道とか、いま見てる景色とか、そういうのが撮りたくて」

 

 

 

胡桃と千草のいつも通りのやりとりのあと、あさぎは胡桃に語りかけます。

 「あいかわらずですね、おふたりは」

「あぁ? そうかなぁ」

「『あいかわらず』が続くのって、辛くないですか?」

「別に……ッ」

 

ハッと気づいて立ち上がる胡桃。

 

「辛いんだ、あさぎは」

「いいんです、いまのままで。

 告白とかって、気持ちの押し付けみたいな気がしてしまって」

 

 

 

さらに撮影会は進みます。

その中で、タイムリミットがあるということについて、あちこちで触れられます。

 

「焼き付けておきたいの。

 みんなのことも、ずっと忘れないように」

「瞳美はいつか、帰りたいの?

 60年後に」

 

琥珀の問いに答えない瞳美と、立ち聞きする将。

 

「2人で撮ってあげる!

 いまのうちだよ!

 文化祭が終わったら、3年は引退なんだよ」

 

 胡桃はあさぎの腕を引っ張りますが、あさぎは思い切れません。

 

「なあ、もうすぐ帰んのかな? 瞳美。

 そんな話、琥珀がしてたから」

 

 

そして琥珀が大量の猫を集めたシーン。

未来から来た瞳美がカメラマンになって、いまの時代に住む部員たちを撮ります。

そこに瞳美は映りません。

集合写真のシーンなのに、参加しない主人公。

さらに、あとわずかで沈む夕日のカット。

陽が暮れてしまったら、子供は帰らなければならないのです。

 

 

 

部室で瞳美を除いた部員の集合写真を加工する瞳美と、教える将。

 

「写真をどういう仕上がりにしたいのかは、自分にどう見えてるか、自分がどう見たいかで変わってくる」

「自分が?」

「明度やコントラストを調整すると、写真の仕上がりも大きく変わる」

 

「瞳美の写真、前とイメージ変わったよな。

 人物写真が増えた成果もだけど、はじめは光なんかいらないって思ってるような写真が多かった。

 でも、最近は光を感じる写真が増えた」

「変わったのかな、わたし」

「俺はいまのほうが好きだよ。

 楽しそうに見える。

 すごく」

 

将に変化を認められる瞳美。

たとえモノクロであっても、明度や彩度で写真の立体感は異なります。

おなじモノクロの世界のままだったとしても、瞳美の見る世界は変わりつつあるのでしょう。

それはまさに将の言うように、『自分がどう見たいかで変わってくる』ということです。

前の世界ではいなかった仲間が瞳美のまわりにいる世界とは、かつての孤独な瞳美の見る景色とおなじであるはずはありません。

 

撮影会の日に盗み聞きしたこと、語られなかった答えを瞳美に尋ねようとしますが、将は聞けませんでした。

 

 

 

そこへほかの部員がやってきます。

どうやらあさぎのカメラが壊れてしまったよう。

 

電源の入らないカメラに、わたしの出番とばかりに魔法をかける琥珀。

時間の巻き戻ったカメラは、すっかり元通りに。

 

薔薇に続いて成功させた琥珀は、自分の時間魔法についての自信をさらに強くしたことでしょう。

 

 

 

ですが……

そんなにうまくはいきませんでした。

 

帰宅して扉を開けた琥珀の目に飛び込んできたのは、すっかりかれてしまった一輪挿しの薔薇。

 

「蕾だったのに!」

 

「わたしの魔法、失敗したの?」

「わたしにもわからないわ」

「これじゃ、瞳美を未来に返すことなんて……」

「未来のあなたは、どうして瞳美が帰る方法を手紙に書かなかったと思う?

 いまの琥珀なら、自分たちで解決できるってわかってて、あえて書かなかったんじゃないかしら。

 きっと大丈夫よ」

 

琥珀は時間魔法をかけた、もう1つのモノを確認しに走り出します。

あさぎに見せてもらったカメラは、やはりまた壊れてしまったようです。

 

単純に考えれば、魔法の効果時間切れです。

時間が巻き戻ったのなら、その効果が切れたら元通りに壊れてしまうし、枯れてしまうのです。

 

ということは、魔法の時間切れで瞳美も???

未来へ送り返すのではなく、タイムアップで戻ってしまうのでしょうか?

 

 

 

 部室でみんなが瞳美の写真を認めます。

 

すごい好き。

千草より上手い。

立派な写真美術部員だな。

 

「みんなと一緒なら、いつかモノクロじゃない写真も撮れるかな?

 琥珀に言われてからずっと考えてたの。

 未来に帰りたいのかどうか。

 ……ここに居たいな」

 

みんなに認められ、嬉しい瞳美。

しかし、それは本当の幸せでしょうか?

 

 

 

「わたしは魔法でみんなを幸せにしたい。

 でも、魔法で人を幸せにするのは、本当に難しい」

 

 

 

琥珀は壁にぶつかってしまったようです。

 

瞳美が帰りたいと思ったとき、責任をもって帰せるようにと学んだ時間魔法はうまく使いこなせません。

そうこうしているうちに、瞳美は琥珀の言葉、「瞳美はいつか、帰りたいの? 60年後に」という問いであったり、部員みんなに受け入れられたことで、ここという過去に居たいという気持ちになってしまいます。

 

 

果たして、瞳美はそれでいいのでしょうか?

過去の世界で生きるために、未来の琥珀は瞳美を過去に送ったのでしょうか?

 

それは違います。

これまでずっと、瞳美に色が見えないこと、色づかないことを散々問題にしてきたのです。

 

1話の花火大会というきらびやかな世界で、楽しげに浴衣で急ぐクラスメイトたち。

うつむき歩いていた瞳美は、「みんな来てるんだ、よかったら一緒に」と誘われても、目を逸らして断わってしまいました。

 

『いまの世界が辛いなら、過去の世界で生きなさい』という憐れみとか、『逃げこむための場所』として、瞳美のために過去を用意する……

そんなことは、琥珀の性格上考えられません。

 

「あなたの悪い癖よ。

 瞳を逸らさないこと。

 楽しんでいらっしゃい」

 

そう言って瞳美を抱きしめ、過去に送り込んだおばあちゃんの想い……

 

そして無理やり送られた、過去の世界。

そこで魔法写真美術部のみんなに受け入れられ、認められ、楽しいのでしょう。 

 

ですが、『みんなと一緒なら、いつか』ではなく、将が言ったように『自分がどう見たいか』。

本来はそうやって色づかせるはずなのに、瞳美はいまが居心地よくなりつつあります。

 

しかし、みんなと一緒でいられる時間はあとわずか。

文化祭までで、唯翔も将も、胡桃も部活動は終わりのはずなのです。

 

そうであるなら『みんなと一緒なら、いつか』とは、本来存在してはいけない選択肢でしょう。

 

いったいなぜ、琥珀は60年分も満月の光をあてて星砂時計を用意したのでしょうか?

 

「あなたはこれから高校2年生のあたしに会いに行きなさい。

 魔法であなたを過去に送ります」

 

「これは決められたことなのよ」

 

ここからの物語は、そもそものキッカケである『どうして過去に行くことが決まっているのか』という、核心に迫っていくことになるのでしょう。

色づく世界の明日から 7話感想、考察

バレを含みます。

セリフは適当聞き起こしです。

 

 

「あのとき見えた色は、またすぐに失ってしまった」

 

 

あれほど色づいた世界ですが、それは一時だけのこと。

琥珀に問われますが、色が見えたきっかけも、なんで見えなくなったのかも、瞳美にはわかりません。

 

落ち込む瞳美を励まそうと、魔法の星占いをする琥珀。

 

「いまを楽しく受け入れましょう。そうすれば色づく世界があなたを待っています」

 

適当な結果で励まします。

その内容とは、過去に飛んだ瞳美のいまをあらわしているにすぎません。

せめて『楽しくいこう!』ということですね。

 

なぜなら……

明日から夏休みです!

 

 

 

模試の結果が良くなかった胡桃ですが、「こーの暑いのによくやるな」という琥珀のセリフのとおり、この時点ではまだ元気です。

 

 

 

「毎年このキャンプの仕切りは、次の部長に任せてるんだ」

 

部の恒例のキャンプのようですが、あさぎが次期の部長に指名されます。

とまどいの視線を送るあさぎですが、将は真っ直ぐに見つめて信頼を示します。

そこには茶化すとか、子供をからかうような意図はありません。

 

「私も協力するから」とフォローする瞳美がそのまま副部長になります。

 

 

 

琥珀の父親からタブレットを借り受ける瞳美。

さっそくアプリにあげられた去年のキャンプの写真を見て、思います。

 

「これ、青空?

 それとも夕焼け?」

「夕焼け。

 きれいな茜色」

「おかしいよね。

 少し前までは色がないのが普通で、空が何色かなんて、気にしたことなかったのに。

 いまは、どんな風に見えてるのか知りたい

 

 

 

『大事な人は遠く離れて、いつの間にか世界は色を失っていった』

『私は大丈夫。

 一人でも平気。

 言い続けているうちに、だんだん本当になっていく。

 これも魔法のせいなのかもしれない。

 自分を守る、ささやかな魔法。

 魔法なんて大嫌い。

 私が魔法使いじゃなかったら、花火は、いまもきれいだったかな……』

 

1話の冒頭から引っ張ってきましたが、過去に来る前の瞳美は世界の色が見えないことを、『誰かのせい』、『魔法のせい』だと、責任を自分の外に置くことで受け入れていました

 

しかし過去に来ることで環境が大きく変わり、瞳美に変化が生まれます。

それはさらに、『唯翔の絵を見たい』から、『世界の色を知りたい』に変わっていきました。

だんだんと、『欲』が生まれてきます。

『欲』というと良くないことのようですが、それは積極性や自主性につながるものでもあります。

消極的過ぎたかつての瞳美からすれば、『知りたい』ということは大きな成長なのです。

 

 

 

「色が見えないこと、ずっと隠してたのに……

 もっと早く話しておけばよかった」

「うつむいてるだけじゃ何も変わらないよ。

 大事なのは、これからだから」

 

琥珀は瞳美の主体性を促します。

 

 

 

公園にアイスコーヒーの出前を頼む胡桃。

 

「俺にあまり会えなくて寂しいとか?」

「はいはい、昼間もあったでしょ。

 バカがうつる」

 

ここまではいつも通り。

 

帰りを心配する千草。

父親が迎えに来るという胡桃。

 

しかし迎えにやってきたのは、父親ではありません。

パティシエの夢を叶え、楽しく頑張る姉でした。

その表情は輝いていて、「いい顔してると思って」と胡桃はパチリと写真に収めます。

 

「楽しいんだよね。

 好きなことやって、喜んでくれる人がいて、それだけで頑張れるもん。

「ん、なんで撮るの?」

「いい顔してると思って」

「胡桃もすきなことやりなよ。

 お父さんが反対しても、私が味方するから」

「うん」

 

このシーンでは、姉の顔に夕日が当たり、胡桃の顔には濃い影が。

 

 

 

いよいよキャンプ開始です。

快晴の夏空です。

絶好のキャンプ日和。

受付を済ませ、移動する部員たち。

 

一人遅れ、視線を落とす胡桃。

心配して声を掛ける千草。

様子がいつもと違うようです。

 

 

噛み噛みの次期部長の挨拶。

最初からうまく……とはいかないようですね。

 

 

食事の担当は胡桃と千草のよう。

 

「そういや先輩、お姉さんなんかいたのね」

「言ってなかったっけ」

「聞いてない聞いてない。

 何してる人?」

「パティシエ。

 ブルティコロールってとこで働いてる」

「マジ!

 そこ知ってる、うちのクラスでもファンの娘いるし

 ほら!

 いまこれがいちばん受けてんでしょ」

 

あっという間に見つけて差し出される写真。

 

「それ、お姉ちゃんが考えたやつだ」

「おおーっ、スゲッ」

「ほんとすごいよ。

 昔から何でもできて、いまの時期にはもう将来も考えてて、夢ちゃんと叶えて。

 憧れちゃう」

 

「よく見たら似てるような似てないような」

 

胡桃は千草から、顔を背けてしまいます。

 

「似てないよ、ぜんぜん。お姉ちゃんと違って、私はなんもないから」

 

ここでわかりやすく、7話のタイトルが。

『ヴィーナスの重荷』

 

輝く姉とは、憧れであり、近すぎて眩しく、重く……

自分と比べてしまう胡桃の苦悩がここにありました。

 

 

 

場面は変わってバーベキュー。

胡桃は引きずっていて、いつもと違う反応を千草に返してしまいます。

予定調和のようないつものやりとりに、ほころびが……

 

あれ?

どうした?

という雰囲気の部員たち。

 

胡桃が取り繕うも『時すでに遅し』です。

 

食後に心配した瞳美が、「胡桃先輩、どうかしましたか?」と声を掛けます。

 

「知ってる?

 山吹と葵の進路」

 

「2人とも、なんかお姉ちゃんとおなじ顔してる」

「お姉ちゃんですか?」

「うん、私の憧れ」

 

やりたいことに進もうとする、唯翔と将のシーンが挟まれます。

 

「でね、やりたいことにまっすぐで、いつも全力で」

「パワフルなお姉さんなんですね。

 琥珀みたい」

「あー、ちょっと似てるかも。

 好きだから、夢だからって、それだけでドンドン前に進んでいけるんだよね。

 そういうの、うらやましい。

 いいよね、本気になれるって。

 私にはそこまで好きになれるものってないから」

 

「やりたいことないんだ、わたし。

 だから勉強も身が入らないのかもね

 

胡桃の極私的な内緒話を、しっかり聞いてしまう千草。

 

 

忘れてました。

ここは魔法部でもあるんでしたね。

砂浜で琥珀が魔法を使います。

 

「思い出を閉じ込める魔法。

 いつか、またみんなでこの星砂をつかって、今日のことを鮮明に思い出せるように。

 時間魔法の初歩中の初歩なんだって。

 瞳美にもあげる」

 

「 私もいろんな魔法が使えたら、もっと胡桃先輩の力になれたのかな……」

そんな瞳美のモノローグ。

 

 

そんなことを思う瞳美の元へとやってきたのは、唯翔です。

 

「やっと月白に見せられるもの、できたかなって」

「うれしい」

「たくさんの色が」

 

「その絵、わたしに色を教えようとしてくださったのですね。

 ありがとうございます」

 

瞳美は自分のために唯翔が特別な絵を描いたことに気づきます。

そして同時に、琥珀が夏休みの前日にしてくれたことも思い出したのでしょう。

 

自分のためにしてもらえたことが、『じゃあ、胡桃先輩のために自分に何ができるのか?』という、瞳美自身の問いにつながります。

そして瞳美は大事なことに気づきます。

 

気づいた瞳美は、琥珀や唯翔のしてくれたことの『恩送り』をするかのように、胡桃先輩を探します。

 

「胡桃先輩、こんなところに来てたんですね」

「どうしたの?」

「星占いやりませんか?」

「ハッ!?」

「先輩何座ですか?」

「てんびん座だけど」

 

アズライトが輝き、占う瞳美。

 

「いまを楽しく受け入れて、そうすれば色づく世界があなたを待ってます」

 

琥珀とおなじように、占いそのものの結果ではなく、励ましの言葉を贈る瞳美。

『魔法で何ができるか』が大事なのではありません。

思いやること、言葉、行動……

こういったことが大事だと、瞳美は気づいたのですね。

 

胡桃はその気持ちが嬉しく、瞳美に抱きつきます。

 

「もーっ、後輩たちに気を遣わせちゃって、ほんとダメだな、わたし。

 元気出た!」

 

 

 

そして胡桃にまつわる話の最後は、やはりこの人、千草の出番です。

胡桃の輝いているところを一番知っているのは、胡桃の姿をたくさん写真に収めている千草以外にいません。

 

カメラを構えている写真。

グラバー園のコスプレ写真。

悪態をつく姿。

琥珀の魔法のお化けに驚く姿。

 

「どれもいい表情してるでしょ。

 何もなくてもいいんじゃね。

 こんだけいい顔できるんだから」

 

 

 

「好きな度合いなんてみんな違うし、ほかにもっと好きなものできるかもしれないし、そんなの、いますぐ決めつけなくてもいいじゃん!

焦んなくても大丈夫っすよ、先輩なら」

 

 

たしかに思い描いていた予定とは違って、夢の船は先に出航してしまいました。

その船には間に合わないようです。

しかし、胡桃には「胡桃っちの走るペースに合わせてたからじゃん」と千草が言うように、胡桃のペースがあるのです。

 

「ここから見える景色も、十分きれいですよ」とあさぎ。

「いいじゃん、これ」と認める胡桃。

 

胡桃のペースで走るそのまわりには、魔法写真美術部の仲間がいます。

一緒にキャンプをしたり、荷物をほっぽり出して走ったり、バカを言い合えるような、そんな楽しい仲間が。

 

それは振り返ってたしかめてみれば、『いいじゃん、これ』という、貴重な時間です。

 

 

 

胡桃の話が落着したところで、『いいじゃん、これ』と言えない状況にある人……

 

つまり瞳美が声をあげます。

 

「あのッ!!

 その夜景、いま皆さんにはどんな風に見えてるんですか?

 わたし、私、皆さんに話したいことがあるんです」

 

どんな風に見えてるのか知りたいならば、世界を色づかせたいと瞳美が願うならば、いままでとおなじではいけません。

 

おなじことをしても、おなじ事しか起こりません。

世界を変えるには、心を。

心が変わったなら、行動を。

一人でどうしていいかわからないなら、協力を。

 

変えようとすることでしか、世界は変わらないのです。

 

 

 

こんなところで、今回は終わりです。

 

『時間魔法の初歩中の初歩なんだって』ということで、琥珀が時間魔法を使い、思い出を閉じ込めていました。

こうしてとっておきたいような想い出が集まるたび、世界は色づいていくのでしょう。

しかし同時にそれは、いつか来る別れが辛くなることを意味するようにも思われます。

 

だんだんと進む季節。

溜まっていく写真に絵、そして想い出たち。

 

さて、この先はどんな未来が待っているのでしょうか?