色づく世界の明日から 8話感想、考察 ~瞳美の見つけた、居場所~
年の瀬も迫るこの時期。
そろそろ物語の終わりが近づいてきています。
全何回か? 調べていないのでわかりませんが、今回はタイムリミットを提示するお話でしたね。
まずは名探偵? 迷刑事? な琥珀の登場からはじまります。
琥珀のはじめて魔法をつかったときの過去回想から。
まるで魔法少女(事実魔法少女ですが)な幼女琥珀が流れ星を出して、こたつの上でクルクルと楽しそうに回ります。
「あの日から、たった1つのことを願い続けてきた。
わたしは魔法でみんなを幸せにしたい!」
その気持ちのままに、山ほどの魔法の書籍を借りて学ぼうとする琥珀のシーン。
……という冒頭ですから、今回はこの価値観が試されるのではないか?
そう予感させられます。
オープニングテーマを挟み、魔法写真美術部の部室へ。
あさぎにペンギンの色を教えてもらう瞳美。
どうやら部員の行きたい場所、撮りたい場所を巡っていて、まだ瞳美の希望の場所だけには行っていないということがわかります。
バックの黒板には、北斎の模写が。
(神奈川沖浪裏だと思われ)
瞳美の行ってみたいところがあれば行こう、となり解散。
琥珀と瞳美は帰り道、「ちょっと付き合って」という琥珀の言葉で出掛けることに。
急斜面、S字にカーブする路面電車や車たち。
黒板の荒波と併せ、琥珀の迷走が予感されます。
電車内の2人。
琥珀は調査を開始します。
「わたしはね、色が見えないのって瞳美が自分に魔法をかけたせいじゃないかと思ってるんだ」
「わたしが自分で?
そんなことするわけ――」
「――わかってるよ!
大事なのは最近、ときどき色が見えるってところ。
つまり、魔法がほころび始めてるのかもしれない」
まずは手帳を片手に足で稼ぎます。
「この辺?
ここって知ってる場所?
未来でなにか特別な想い出とか、あったりした?」
「こうして色が見えたときの状況を丁寧に調べていけば、魔法を解くヒントがつかめるんじゃないかと思って……
場所は関係ないのかな。
となるとやっぱり原因は……
あの日! 唯翔さんとなんかあった!」
わかりやすく、まるでタコのように真っ赤に反応する瞳美。
「言いづらいのはわかるけど、瞳美の魔法を解くための大事な手掛かりかもしれない。
詳しく教えて」
ドラマの刑事よろしく、相手の嫌なことでも突っ込んでいく迷刑事、琥珀。
傘を受け取ったときのことがリフレインする瞳美。
「恥ずかしいから」
「大丈夫!
言えるまで待ってるよ」
耳打ちされた内容に、ガッカリする琥珀。
「正直あんまり引っ張るから、キスくらいしたのかと思ってた」
「実験が必要ね」
どうやら場所から人へと、調査は変更のようです。
放課後。
唯翔を強引に連れてくる琥珀。
強制的に向き合わされ、気まずい唯翔と瞳美。
色が見えるはずもありません。
つづいて屋上でも。
もじもじする瞳美。
「唯翔くん」
「瞳美!
顔上げて!」
「唯翔くん!」
「瞳美の感情が動くと色が見えるのかなぁと思ったんだ。
けど、わたしが見てる前だと気持ちに集中できないよね」
「すいません。
唯翔くんなんて」
「別にいいよ。
瞳美なら」
いつぞやの屋上では拒んでいた名前呼び。
部活動で夜の学校へ
引用
千草と胡桃は、なんだかんだで上手く2人きりに。
「月白さん」で混乱、2回目です。
下の名前で呼ぶ、将。
唯翔は「琥珀と月白さん」、と名前で瞳美を呼ぶことを避けました。
「区別がつけばいいんだろ」
月白さんと言われ、瞳美はあきらかにガッカリ。
顔が真っ暗に。
引用ここまで。
2人の関係性は、当時とは少しずつ変っています。
今度は図書館に場所を移します。
唯翔のタブレットを見ながら、色が見えるもの、見えないものを確認していきます。
「どうかしたの?
「いえ、絵本見てて思い出したことがあって。
小さい頃、1つだけ、色がついて見えてた絵本があったんです。
どんな本だったのか、覚えてはいないんですが……」
そういえばこないだの個展」
「ああ、うん」
「綺麗な人でしたよね」
「ええ!?」
ちょっと困った会話に最後はなりましたが、重要なことが1つ。
どうやら『未来の唯翔は、絵本作家ではないか?』ということが提示されます。
あるいはそれはミスリードで、『おじいちゃんの手製の絵本』ということもあるかもしれません。
まったくの想像なので詳細はともかく、前の世界、過去に飛ぶ前の世界の幼少期で、見たことがあるということは決定でしょう。
このあとも琥珀は努力しますが(間違った方向に)、強制的に色を見せようとする実験は失敗のようです。
自宅で魔法の練習を重ねる琥珀。
びっしりと書き込まれたノートも映され、琥珀が真剣に取り組んでいることが伝わります。
「ちゃんと間に合うといいんだけどね、その時までに。
未来のわたしが、魔法で瞳美をこっちの時間に送ったんだもん。
瞳美が戻りたくなったときは、わたしが責任をもって帰してあげたい」
「少しずつ練習はしてるんだ」
枯れた薔薇の花を蕾まで戻してしまう琥珀。
凄いですね!
琥珀がずっと練習し、研究した成果があらわれています。
「すごいじゃない琥珀!
この薔薇、おばあちゃんが好きなの。
喜ぶわよ、きっと」
ところで琥珀についてですが、彼女もまた、成長しているように思われます。
大がかりな魔法の仕掛けで、迷惑をかけて驚かせる、もとい、楽しませるようなシーンは帰国直後だけです。
それからの琥珀に、始末書を書くような『やらかし』はありません。
小さないたずら的な(図書館の机の下の唯翔と瞳美を無理やりくっつけるなど)ものはあります。
しかし、大騒動になるようなシーンはありませんね。
『わたしは魔法でみんなを幸せにしたい!』という琥珀は、これまでまわりの人たちを驚かせることで楽しませてきました。
はじめて魔法をつかった冒頭の回想でも、星が流れて襖(ふすま)は穴だらけでした。
帰国後は校舎に機関車の煙があふれ(瞳美のせいでもありますが)、始末書の場面では教頭先生にも担任の先生にも露骨に御土産を嫌がられ、「いりません!」と即答されています。
写真美術部の面々も、屋上で制服のすすを叩いて払っていました。
結果として『わたしは魔法でみんなを幸せにしたい!』というわりに、まわりは幸せになっていなかったように思われます。
むしろこれまで、まわりのあたたかさに助けられていたのは、琥珀のほうではないでしょうか?
性格や人間関係のつくり方によって、迷惑を大目に見られていたように思われます。
それは楽しませるというより、悪ノリに近かったのでは?
琥珀は瞳美を過去に送った張本人ですが、瞳美が過去にやってきたことで恩恵を受けています。
写真美術部という仲間を得たり、瞳美のために時間魔法の研究に打ち込んだりと、暴走しがちだった琥珀自身の魔法の力の使い方を学ぶ機会を得ているように感じられます。
瞳美の希望によって、撮影会がはじまります。
「本当にここでいいの?」
「撮るようなもの、何も無くない?」
「学校へ行く道とか、いま見てる景色とか、そういうのが撮りたくて」
胡桃と千草のいつも通りのやりとりのあと、あさぎは胡桃に語りかけます。
「あいかわらずですね、おふたりは」
「あぁ? そうかなぁ」
「『あいかわらず』が続くのって、辛くないですか?」
「別に……ッ」
ハッと気づいて立ち上がる胡桃。
「辛いんだ、あさぎは」
「いいんです、いまのままで。
告白とかって、気持ちの押し付けみたいな気がしてしまって」
さらに撮影会は進みます。
その中で、タイムリミットがあるということについて、あちこちで触れられます。
「焼き付けておきたいの。
みんなのことも、ずっと忘れないように」
「瞳美はいつか、帰りたいの?
60年後に」
琥珀の問いに答えない瞳美と、立ち聞きする将。
「2人で撮ってあげる!
いまのうちだよ!
文化祭が終わったら、3年は引退なんだよ」
胡桃はあさぎの腕を引っ張りますが、あさぎは思い切れません。
「なあ、もうすぐ帰んのかな? 瞳美。
そんな話、琥珀がしてたから」
そして琥珀が大量の猫を集めたシーン。
未来から来た瞳美がカメラマンになって、いまの時代に住む部員たちを撮ります。
そこに瞳美は映りません。
集合写真のシーンなのに、参加しない主人公。
さらに、あとわずかで沈む夕日のカット。
陽が暮れてしまったら、子供は帰らなければならないのです。
部室で瞳美を除いた部員の集合写真を加工する瞳美と、教える将。
「写真をどういう仕上がりにしたいのかは、自分にどう見えてるか、自分がどう見たいかで変わってくる」
「自分が?」
「明度やコントラストを調整すると、写真の仕上がりも大きく変わる」
「瞳美の写真、前とイメージ変わったよな。
人物写真が増えた成果もだけど、はじめは光なんかいらないって思ってるような写真が多かった。
でも、最近は光を感じる写真が増えた」
「変わったのかな、わたし」
「俺はいまのほうが好きだよ。
楽しそうに見える。
すごく」
将に変化を認められる瞳美。
たとえモノクロであっても、明度や彩度で写真の立体感は異なります。
おなじモノクロの世界のままだったとしても、瞳美の見る世界は変わりつつあるのでしょう。
それはまさに将の言うように、『自分がどう見たいかで変わってくる』ということです。
前の世界ではいなかった仲間が瞳美のまわりにいる世界とは、かつての孤独な瞳美の見る景色とおなじであるはずはありません。
撮影会の日に盗み聞きしたこと、語られなかった答えを瞳美に尋ねようとしますが、将は聞けませんでした。
そこへほかの部員がやってきます。
どうやらあさぎのカメラが壊れてしまったよう。
電源の入らないカメラに、わたしの出番とばかりに魔法をかける琥珀。
時間の巻き戻ったカメラは、すっかり元通りに。
薔薇に続いて成功させた琥珀は、自分の時間魔法についての自信をさらに強くしたことでしょう。
ですが……
そんなにうまくはいきませんでした。
帰宅して扉を開けた琥珀の目に飛び込んできたのは、すっかりかれてしまった一輪挿しの薔薇。
「蕾だったのに!」
「わたしの魔法、失敗したの?」
「わたしにもわからないわ」
「これじゃ、瞳美を未来に返すことなんて……」
「未来のあなたは、どうして瞳美が帰る方法を手紙に書かなかったと思う?
いまの琥珀なら、自分たちで解決できるってわかってて、あえて書かなかったんじゃないかしら。
きっと大丈夫よ」
琥珀は時間魔法をかけた、もう1つのモノを確認しに走り出します。
あさぎに見せてもらったカメラは、やはりまた壊れてしまったようです。
単純に考えれば、魔法の効果時間切れです。
時間が巻き戻ったのなら、その効果が切れたら元通りに壊れてしまうし、枯れてしまうのです。
ということは、魔法の時間切れで瞳美も???
未来へ送り返すのではなく、タイムアップで戻ってしまうのでしょうか?
部室でみんなが瞳美の写真を認めます。
すごい好き。
千草より上手い。
立派な写真美術部員だな。
「みんなと一緒なら、いつかモノクロじゃない写真も撮れるかな?
琥珀に言われてからずっと考えてたの。
未来に帰りたいのかどうか。
……ここに居たいな」
みんなに認められ、嬉しい瞳美。
しかし、それは本当の幸せでしょうか?
「わたしは魔法でみんなを幸せにしたい。
でも、魔法で人を幸せにするのは、本当に難しい」
琥珀は壁にぶつかってしまったようです。
瞳美が帰りたいと思ったとき、責任をもって帰せるようにと学んだ時間魔法はうまく使いこなせません。
そうこうしているうちに、瞳美は琥珀の言葉、「瞳美はいつか、帰りたいの? 60年後に」という問いであったり、部員みんなに受け入れられたことで、ここという過去に居たいという気持ちになってしまいます。
果たして、瞳美はそれでいいのでしょうか?
過去の世界で生きるために、未来の琥珀は瞳美を過去に送ったのでしょうか?
それは違います。
これまでずっと、瞳美に色が見えないこと、色づかないことを散々問題にしてきたのです。
1話の花火大会というきらびやかな世界で、楽しげに浴衣で急ぐクラスメイトたち。
うつむき歩いていた瞳美は、「みんな来てるんだ、よかったら一緒に」と誘われても、目を逸らして断わってしまいました。
『いまの世界が辛いなら、過去の世界で生きなさい』という憐れみとか、『逃げこむための場所』として、瞳美のために過去を用意する……
そんなことは、琥珀の性格上考えられません。
「あなたの悪い癖よ。
瞳を逸らさないこと。
楽しんでいらっしゃい」
そう言って瞳美を抱きしめ、過去に送り込んだおばあちゃんの想い……
そして無理やり送られた、過去の世界。
そこで魔法写真美術部のみんなに受け入れられ、認められ、楽しいのでしょう。
ですが、『みんなと一緒なら、いつか』ではなく、将が言ったように『自分がどう見たいか』。
本来はそうやって色づかせるはずなのに、瞳美はいまが居心地よくなりつつあります。
しかし、みんなと一緒でいられる時間はあとわずか。
文化祭までで、唯翔も将も、胡桃も部活動は終わりのはずなのです。
そうであるなら『みんなと一緒なら、いつか』とは、本来存在してはいけない選択肢でしょう。
いったいなぜ、琥珀は60年分も満月の光をあてて星砂時計を用意したのでしょうか?
「あなたはこれから高校2年生のあたしに会いに行きなさい。
魔法であなたを過去に送ります」
「これは決められたことなのよ」
ここからの物語は、そもそものキッカケである『どうして過去に行くことが決まっているのか』という、核心に迫っていくことになるのでしょう。