響け! 心に!!

なんで「響いたのか?」をしちめんどくさく考えてみる、メンドウな人の考察。アニメ中心考察予定です。

劇場版 響け!ユーフォ感想考察 届けたいメロディ~直接対決~

だいぶ前回から間が空いてしまいました。

残り2,3回ほどだと思いますが、お付き合いのほどを。

 

 

姉とのあいだに橋を架けた久美子が、電車の中で号泣したシーンのあとからですね。

 

 

・噓をつく、あすかを目撃するシーン

 

電車で泣きはらした、自分の顔をチェックする久美子。

そこへ聞こえてきたのは、あすかの声。

 

タイムリミットが近づき、あすかのイラ立ちは頂点に達しています。

以前の渡り廊下のときと違い、2人におどけて答える余裕は微塵もありません。

母親ほどではないにしても、乱暴な言い方で香織に反論し、黙らせてしまう。

 

「私、もう踏ん切りはついてるから。

 そのぶん受験頑張るって」

「あすか」

「本当にそれでいいのね。

 本当に、いいんだよね」

「最初からそう言ってるじゃん」

 

「どうしてあんな嘘、つくんだろう」

 

 

 

あすかは追い詰められつつあります。

いつぞやの渡り廊下のように、受け流すことが難しくなっている様子がわかります。

職員室の母親ほどでなくても、荒いセリフで、投げ捨てるような物言いになってしまいました。

 

その様子を聞いてしまった久美子は、もう我慢できません。

姉の後悔を知った久美子は、あきらかな嘘を許せません。

それは未来の後悔へ至る道です。

 

さらにこのままでは、もう1人の姉とも、一緒に吹けなくなってしまうのですから。

 

 

 

あすかは徹底して第三者の協力を受け入れようとはしません。

 

どうせ誰にも変えられない。

話したところで、どうなるの?

 

そうした想いがあすかの中にはあるのでしょう。

ですがそれは、あすかが『枷』だという母親とおなじスタイル。

 

渡り廊下の扉を閉めるという目に見える形で、協力を拒むことをあらわしたあのときのように、ふたたび香織と晴香の言葉を拒絶します。

 

良かれと思って言ってくれる他者の意見を、いったん受け止めて考えるようなことはしないのです。

それは職員室で、滝先生や教頭の言葉を聞かなかった母親とおなじです。

さらにあすかの意見をも聞かなかった母親と、おなじ構図のように感じられます。

 

あすかの中では、解決する手段は1つだけです。

それと決めたら、絶対に変えません。

 

あすかの中でも、母親の中でも、自分の答え(それがあきらめであっても)がすでにあるなら、それを変えようとはしない。

それはおなじ時間を過ごした母娘ゆえ、そういうことかもしれませんね。

 

そして、その解決策は難しそうなのでしょう。

だから余裕を失って、声を荒げてしまっているのだと思います。

あるいは母とぶつかることに疲れてしまい、投げやりになりつつあるのかもしれません。

 

ほとんど参加しないようになりつつあっても、駅ビルコンサートもそうですが、たまには参加していたようです。

母親に隠れて部活に行くことに、スリルという楽しみが……

……あるわけないですね。

参加してユーフォニアムを吹いているときいいでしょう。

ですが『母親にバレたら』と考えれば、その前後の気持ちとは、とても重たく憂鬱だと想像できます。

 

 

 

 

・数学の授業

 

またもや数学です。

授業中の久美子。

 

あすかの家で告白を聞いた久美子は、あすかの本心を知っています。

 

「どうしてあんな嘘つくんだろう。

 全国大会、行きたいに決まってるのに。

 吹きたいに、決まってるのに」

 

真っ黒焦げの鍋を力の限り洗っていた、麻美子の回想。

 

「はーい!

 じゃ―、きょうはここまで。

 テスト頑張れよ」

 

何でもないモブ教師のセリフが終わるや否や、席を立つ久美子。

何度も頑張らないと、難問は解けないのです。

あすかの教室に向かい、難問に挑みます。

 

ゴミ捨て場へ向かう途中、飴ちゃんをもらう久美子。

(卒業式直前でも、手に持って見つめているシーンあり)

 

姉の言葉を聞いた今、久美子にジッとして待っているという選択肢はありません。

 

「もしかして、ついに愛の告白?」

「違います」

 

それは当然否定されます。

愛の告白ではなく、これはお願いです。

久美子の望みでもあるのですから。

 

「コンクールに出てください」

 

あすかに向ける久美子の言葉は、果たされなかった姉との想いでもあります。

当時の幼い自分が、姉にどういったらいいのかわからず、言えなかった想い。

 

説得に掛かる久美子。

 

先輩には事情があります。

みんな言ってます。

低音パートのみんなや夏紀先輩は……

 

「久美子自身がどうか?」ではなく、外側から回り込むように攻める久美子。

そんな言葉には、あすかを揺るがす力があるはずもなく……

 

 

やがて、蜘蛛の巣にかかる久美子。

しかしその蜘蛛の巣は、ほつれて綻んでいます。

あすかの正論を破る道は、ある。

あるのだが……

 

「黄前ちゃん、そう言えるほど、その人たちのこと知ってるのかなって思って」

 

「気になって近づくくせに、傷つくのも傷つけるのも怖いから『なあなあ』にして、安全な場所から見守る。

 そんな人間に、相手が本音をみせてくれてると思う?」

 

ショックで放心する久美子。

 

「……なんだ、珍しく威勢がいいと思ったら、もう電池切れ?

 私がこのままフェードアウトするのがベストなの。

 心配しなくても、みんなすぐ私のことなんか忘れる。

 一致団結して本番に向かう。

 それが終わったら、どっちにしろ3年生は引退なんだから」

 

あすかもまた、久美子に指摘しておきながら、矛盾した返事である『みんなにとっていいこと』で返す。

本音を語らない久美子を責めたのにもかかわらず、本音ではない建前で返してしまうのです。

 

『私がこのままフェードアウトするのがベストなの。

 心配しなくても、みんなすぐ私のことなんか忘れる。

 一致団結して本番に向かう。

 それが終わったら、どっちにしろ3年生は引退なんだから』

 

父親にユーフォニアムのメロディを届けたいのに、これがあすかの本心であるはずがないのです。

フェードアウトするということは、あすかのしたいこと、望みではありません。

まわりがどうか?

他人に迷惑をかけない。

それだけです。

 

 

放心状態だった久美子を、それぞれの部員との想いが揺さぶり、目覚めさせます。

麗奈が、夏紀先輩が、サファイアが……

そして姉の麻美子と果たされなかった、「いっしょに吹きたい」という、久美子自身の想い。

 

 

「だったら何だっていうんですか?

 先輩は正しいです。

 部のこともコンクールのことも全部正しい。

 でも、そんなのはどうでもいいです。

 あすか先輩と本番に出たい!

 私が出たいんです!」

「そんな子供みたいなこと言って――」

「――子供で何が悪いんです?

 先輩こそ、なんで大人ぶるんですか

 全部わかってるみたいに振る舞って、自分だけが特別だと思い込んで

 先輩だってただの高校生なのに

 こんなののどこがベストなんですか!

 先輩、お父さんに演奏聞いてもらいたいんですよね。

 誰よりも全国行きたいんですよね。

 それを、どうして無かったことにしちゃうんですか。

 我慢して諦めればまるく収まるなんてそんなのただの自己満足です。

 おかしいです。

 『待ってる』って言ってるのに、あきらめないでくださいよ。

 後悔するってわかってる選択肢を、自分から選ばないでください。

 あきらめるのは最後までいっぱい頑張ってからにしてください。

 私もあすか先輩に本番に立ってほしい。

 あのホールで先輩と一緒に吹きたい。

 先輩のユーフォが聞きたいんです」

 

笑うあすか。 

 

「なんて顔してんの。

 ぐちゃぐちゃだよ」

 

歩み寄り、久美子の頭を撫でるあすか。

 

「うれしいね。

 うれしいな」

「先輩、顔、見てもいいですか?」

「ダメ!

 見たら末代まで呪われるよ」

 

撫でる手で頭を押さえ、あすかは顔を見られないようにします。

 

そこへ知らせが。

模試の結果で呼ばれるあすか。

渡された結果を抱きしめ、ふたたび泣きます。

 

そして力強く、歩き出すあすか。

 

 

 

ぐちゃぐちゃな顔で、肩で息をするほど昂ぶり、子供のような純粋さで泣き叫ぶ久美子。

その言葉には、本心しかありません。

 

余所行きの顔で、落ち着いた雰囲気で、建前や策を弄するような大人の言葉とは、まったくの対極でした。

 

 

 

・あすかとの対決について

 

「気になって近づくくせに、傷つくのも傷つけるのも怖いから『なあなあ』にして、安全な場所から見守る。

 そんな人間に、相手が本音をみせてくれてると思う?」

 

あすかは久美子を傷つけんばかりに、恐ろしさを感じる表情で、きつい言葉を叩きつけました。

久美子は実際にショックを受け、放心したようになりましたね。

 

これとおなじことは、過去に1度ありました。

 

あすかとの対決とは、これが初めてではありません。

家庭教師のシーンはあすかの打ち明け話ですから、これは対決ではありません。

 

では、どこでしょうか?

 

 

 

それは前作の中にありました。

 

本心を影に隠したあすかの、仮面の下の暗闇を……

久美子はチラリと、のぞき見したことがあったのです。

 

 

それは麗奈と香織先輩の、ソロパートをめぐる争いにおいてです。

ソロパートを練習する香織を、校舎の上から見つけてしまった久美子。

そこへあすかがこっそりとうしろから忍び寄り、冷たいペットボトルでおどかしてからはじまるシーンですね。

 

久美子はあすかに、オーディションのことについて聞きます。

1度は「私的な意見はノーコメンツ♪」とかわされますが、久美子は食い下がりました。

それでもなお、あすかの本心を聞き出そうとしたのです。

 

「正直言って、心の底からどうでもいいよ。

 誰がソロとか、そんなくだらないこと」

 

麗奈か香織か?

それを聞いているはずなのに、久美子はこのように返されてしまいます。

これに対して久美子は、なんの言葉も発することができません。

 

予想外の答えに絶句してしまう久美子。

「それが本音なのか、建前なのか……

 その心を知るにはあすか先輩の仮面はあまりに厚く……

 私には、とても剥がせそうになかった」

 

そんな久美子のモノローグ。

 

そして本心を聞き出したにもかかわらず、何も言わない。

何も言わないとは、それ自体が答えになってしまうことがあります。

 

あすかが語った本心に対して……

 

「冗談?」

「理解できません」

「わかりません」

「何を言ってるんですか?」

 

……こんなふうに、無言であっても返事をしているのとおなじです。

 

それを踏まえて、もう1度考えてみましょう。

 

「気になって近づくくせに、傷つくのも傷つけるのも怖いから『なあなあ』にして、安全な場所から見守る。

 そんな人間に、相手が本音をみせてくれてると思う?」

 

あすかの理解の難しい答えに対して、久美子は答えられなかった。

それは、『なあなあ』で済ませた。

聞かなかったことにした。

そう受け取れます。

 

久美子は「その心を知るにはあすか先輩の仮面はあまりに厚く」とひるんで、その真意を尋ねようとはしませんでした。

「私には、とても剥がせそうになかった」と、その発言の真意を問うたりはしないし、「どうでもいいとか、くだらないとか、そんなのは人としてあり得ません!」などと怒りをあらわすこともしません。

ただただ、本当の答えを理解しようとすることをあきらめてしまったのです。

 

かなりひどく聞こえる答えでしたから、「さらに追及して聞いたら、いったい何が起こるのか?」。

そう久美子がビビってしまうのも、たしかに理解できます。

 

 

 

しかし、一方のあすかの立場からするとどうでしょうか?

 

食い下がられたから、仕方なく(あるいは挑戦的に)本心を答えたのです。

ある意味で危険なあすかの本心を、久美子の前にさらしたのです。

 

そうまでしてみせたのに、相手はそれに反応しなかった。

その真意を聞こうともせず、知ろうと努力もせずに、黙ってしまう。

 

そうであるならば、あすかがゴミ捨て場のシーンで久美子に対して冷たい言葉を叩きつけるのも、よく理解できるのではないでしょうか。

 

久美子はかつて、あすかへと気になって近づき、「本心を教えろ」と迫りました。

だからあすかは本心を教えたのに、傷つくのも傷つけるのも怖くなった久美子は、パンドラの箱を開ける勇気を持てませんでした。

だから、『なあなあ』にして、何も言わなかったのです。

 

では、そんな人間にあすかが本音をみせてくれるのでしょうか?

 

見せるはずが、ありません。

一方的な自己開示とは、ただただ弱点を晒すだけの危険行為です。

おそらくあすかは、何も言わなかった(言えなかった)当時の久美子に、いくらか……

いえ、かなり失望したはずです。

そんな久美子の『踏み込んだのに逃げた』という行為を、『安全な場所から見守る』と表現したのではないかと思います。

 

しかし、人間とは変わります。

 

ソロパート争いのときは「とても剥がせそうになかった」ので、久美子には引き下がるよりほかに方法はありませんでした。

久美子はあすかのことをよく知らず、久美子自身の経験や成長も足りませんでした。

 

しかし2度目の対決では、久美子が久美子自身の殻を破ります。

殻を破るに十分なものを、すでに持っているのです。

 

 

十分な経験や成長。

それについてはいつも触れていますので、ここでは別の視点で考えてみたいと思います。

 

それは『人間関係とは変わるもの』だということです。

出会いからはじまるのが人間関係ですが、はじめから特別な関係とはありません。

いきなり恋人関係が生まれたり、親友になることなど、あるでしょうか?

そんなこと、ありませんよね。

 

人間関係にも成長と衰退があります。

それは変わらないもの、固定化したものでは無いのです。

関係が良くなることもあれば、逆に悪くなり、最悪は道が別れてしまうことだってあるのです。

 

あすかと久美子の関係も、ソロパート争いのときと、あすかの退部騒動のときを比べれば、全く違うものです。

 

まるで姉妹を思わせるような言動は、何度も見られます。

滝先生にダメ出しをされてクビにされたシーンも、合宿で安定感がでてきたと褒められたシーンも、誰より近くで見守っていたのはあすかでしょう。

その小節の難しさも、乗り越えようとする久美子の努力や成長も、1番よくわかるはずです。

さらに久美子は職員室での事件を目撃しています。

あすかは数学を理由に久美子を家に呼び、家庭の事情を打ち明けてさえいます。

心配して教える、家に呼ぶ。

こうしたことはすなわち、可愛がっているということです。

 

こうしたことの全てが、「互いに関係を成長させる努力をしている」ということです。

どちらかが拒んだり、望まなければ、お互いの関係とは成長しません。

 

このようにあすかと久美子のあいだにも、必要な下準備ができたからこそ、さらに内面の奥の奥……

深いところまで踏み込むようなやり取りができたのです。

 

『人間関係とは変わるもの』である。

そう言うと難しく感じるかもしれませんが、日常で、これまでの過去で、誰もが経験していることです。

単純にあらわせば、それこそがストーリーというものです。

恋愛モノでも、コンビ(バディ、相棒)が活躍するドラマでも、おなじ関係のままだったら話が成立しません。

出会い、衝突、誤解、共感、反発、別れ、再会……

変わることが救いであり、悲劇であり、歴史であり、成長です。

 

あすかと久美子は、あかの他人やただの知り合いではありません。

出会いにはじまり、さまざまな出来事を通じて、いまの2人にふさわしいストーリーを互いに築いていた。

そういうことです。

 

ゲームでいうところのフラグと表現すると、いささか軽過ぎでしょうか。

それはともかく、こうした2人の関係性の変化に、久美子の成長や姉との想いが重なって、『準備ができた』といえるでしょう。

 

 

 

あすかとの対決、その前の電車の号泣シーン……

何度見てもジーンとしてしまいます。

ホントに、いいシーンですね!