響け! 心に!!

なんで「響いたのか?」をしちめんどくさく考えてみる、メンドウな人の考察。アニメ中心考察予定です。

劇場版 響け!ユーフォ感想考察 届けたいメロディ~自分の道を行き(生き)たい!~

 

  • この記事は、作品の具体的な内容に、深く、大きく関わります。

  「バレは困る!」という方は、残念ですが視聴後にご足労いただければ幸いです。

 

  • セリフはすべて聞き起こしです。

   間違いもあるかと思われますが、ご容赦ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・廊下

 

低音パートのメンバーに、田中家訪問の結果を報告させられる久美子。

 

 

 

・黄前家

 

「くさっ」

 

勉強の合間に、ユーフォニアムの教本を手に取る久美子。

それを中断させたのは、漂ってきた異臭でした。

 

久美子が覗き込んだ鍋は、黒焦げ。

なんと味噌汁さえ黒焦げにしてしまう、凄腕の麻美子。

 

手際よくつくっていく久美子と比べるに、料理の手伝いなど母親にさせてもらえなかったのかもしれません。

「そんなことより勉強しなさい」

あくまで想像ですが。

 

麻美子は大量の食材で夕飯をつくり、それをきっかけに仲直りしようとしているようです。

 

「私さ……

 私ね、ずっと自分で決めることを避けてきたの。

 文句言いながら、ずっとお母さんたちの言う通りにしてきた」

 

焦がした鍋をごしごしと洗う麻美子。

その隣で、料理は久美子がつくっていきます。

そこで姉の素直な想いが、久美子に語られます。

 

幸せそうな家族の写真のアップ。

 

「あんたのこと、すごくムカついてた。

 能天気に部活して、なんでこの子ばっかりって。

 私ね、あんたのこと、うらやましかった。

 好き勝手やって、父さんも母さんもあんたのわがまま聞いて」

「お姉ちゃんのほうが、どう考えてもひいきされてたよ

 私は出来が悪いから見放されてただけ」

「そんなわけないでしょ」

「あーる。

 お母さんお姉ちゃんばっか褒めてたし、私の方がいつも拗ねてたんだけど」

「まぁ、自慢の娘だった、てのは認める」

 

 

 

おなじ家族の生活の中で、おなじ時間を過ごしたのにもかかわらず、2人の姉妹の感じ方は異なります。

 

麻美子にとって妹の久美子とは、辞めたくなかった吹奏楽を能天気に続ける、見たくない存在です。

未練を思い出させて、むかつく。

やりたいことを続けているなんて、わがままを聞いてもらえるなんて、うらやましい。

 

久美子にとって姉の麻美子とは、自分よりも出来が良くて、ひいきされている存在。

自分が褒められたくても褒められず、母は姉を褒める話ばかりする。

 

互いが互いに嫉妬の対象だった、ということが語られます。

 

 

 

「でも、演じるのはもう止めることにした。

 高校生なのにわかったふりして、大人のふりして、世の中こんなもんだって全部飲み込んで我慢して……

 でも……

 そんなのなんの意味もない。

 後悔も失敗も、全部自分で受け止めるから、自分の道を行き(生き)たい!」

 

『後悔も、失敗も~』のセリフに重ねて、トロンボーンを閉じ、しまう回想。

本当はトロンボーンを辞めたくなかったということが伝わるシーン。

 

「そう素直に言えばよかった。

 反対されてもそう言えばよかった。

 だから今度は間違えない!」

 

鍋の焦げが落とされるとともに、麻美子は心の中にたまった澱(おり)のようなものも、綺麗に吐き出してしまいます。

いままで久美子に話せなかったことを話せ、スッキリした表情になる麻美子。

 

このシーンのセリフは久美子を動かし、久美子を助ける重要なセリフです。

 

「ねえ、家出てくの?」

「うん」

「そっか」

「寂しい?」

「別に」

「そっか、私はちょっと寂しい。

 ちょっとだけどね」

 

「そうだ、全国聞きに行くから、頑張ってね」

「えっ、お姉ちゃんがまさか、見に来るの」

「だからそう言ってるじゃん」

 

驚きのあまりうろたえ、せっかく味噌を入れた味噌汁を煮立たせてしまい、吹きこぼしそうになる久美子。

(味噌を入れたあとは、煮立たせないことが好ましい)

 

「まぁ、あんたもさ、後悔のないようにしなさいよ」

 

リビングを出る、麻美子。

 

ぐつぐつと沸騰したばかりの味噌汁なのに、なんとお玉で直接に味見してしまうほどに、動揺している久美子。

 

「熱!」

 

火傷必至です。

 

 

 

・翌日、黄前家

 

橋のカットが挟まれます。

姉の麻美子から、久美子へと。

想いが伝えられた昨夜。

姉の方から歩み寄り、橋が架けられました。

 

姉の部屋には、荷造りされた段ボールとトロンボーンのCDしかありません。

 

「お姉ちゃんは?」

「今朝、向こうに戻った」

「そっか」

 

通学する久美子。

電車の中で通り過ぎていく景色。

しかし、見えているのは風景ではありません。

 

電車は久美子を過去へ運ぶ、タイムマシン。

流れる景色のように、電車の揺れと共に時間が戻っていきます。

そして、あの頃の思い出に帰りつく、久美子。

 

 

吹いて、とねだる幼い久美子。

 

「もう一回、もう一回だけ」

「しょうがないなぁ」

 

 

「うるさいって言ってるでしょ」

 

 

「私ね、あんたのことうらやましかった」

 

 

「ホントにやりたいの?」

「うん、やりたい。

 お姉ちゃんと一緒に吹きたい!」

 

 

気づくと電車の中、人前なのにもかかわらず、泣いてしまっている久美子。

 

思い出がよみがえり、溢れ、涙までもこぼれ出す。

それほどに寂しく、やっとそれに気づく。

 

「私も、寂しいよ」

 

久美子が楽器をはじめたのは、「お姉ちゃんと一緒に吹きた」かったから。

 

それがいま、号泣と共に思い出される。

 

けれども……

 

すでに姉との想いが果たされる可能性はありません。

姉は新しい世界へと、旅立ったあと。

 

ふたたび楽器を手に取ることが仮にあるとしても、それは久美子とは熱量の違う、別のものでしょう。

いえ、覚悟を持って進む姉には、そのような余裕はないはずです。

 

果たされなかった想い。

「お姉ちゃんと一緒に吹きたい!」

 

その後悔はここから先、この物語において久美子を動かしていく大きな原動力となっていくのです。

 

 

*父親の出張前日、姉を除いた黄前家の面々が集まったときにも、久美子は自室の扉を開けて過去に戻ります。

しかし、そのときは姉の麻美子とのわだかまりは、いまだ解決されていませんでした。

よって久美子は思い出したくないことを思い出さないように、バタンと扉を閉めることで閉じ込めました。

わだかまりがあることを思い出すということは、当然嫌な気持ちになりますので……

 

しかし橋が架かったいま、思い出はその先の「お姉ちゃんと一緒に吹きたい!」まで、ようやく帰り着くことができたのです。

 

色づく世界の明日から 6話感想、考察

バレを含みます。

セリフは適当聞き起こしです。

 

 

 

 

部の撮影会が、グラバー園で行われることになりました。

 

「こないだはありがとう。

 実は途中で変なものが見えたんだけど……

 突然、星と一緒に、金色のサカナが出てきたんだ」

 

瞳美の星砂は、プラネタリウムのようになるはずでした。

しかし、星砂によって起こった現象は、瞳美の見る世界だったのです。

 

金色の夕日が輝く帰り道。

星砂で部屋に現れた、金色のサカナのことが唯翔の口から語られます。

 

「あの魚は、俺が時々絵に書いてたものだと思う。

 小学生のとき、授業で描いた絵で、はじめて賞をもらった。

 そのときに描いたのが、金色のサカナだったんだ。

 どうしてそんなものが出てきたのか、わかんないけど」

 

「見せてもらえませんか?

 その写真」

 

瞳美は将から、絵そのものではなく、写真に撮ったものを見せてもらえることになります。

唯翔はサカナの絵を、瞳美に見せてはくれませんでした。

うつむき歩く唯翔は、それを見せたくなかったのかもしれません。

 

将に頼んだときのパソコンの波に輝く光の写真。

待ち合わせ場所の公園。

どちらもモノクロです。

 

公園にやってきた将の見せてくれたアルバム。

その中で、額に入ったサカナの絵だけが色づいています。


「展覧会のとき、撮ったんだ。

 賞をもらったとき、唯翔の親父さんがすごく喜んでさ。

 それから絵を描くようになったんだ。

 唯人ってそういう話、あんまりしないんだよな。

 自分のこと話すの、好きじゃないのかも。

 アイツ繊細だから」

 

こうして瞳美は、唯翔の語らなかった過去、あるいは語りたくなかった過去を知ります。

 

『唯翔の親父さん』とは、どんな関係で、いまどうなっているのか?

気になるところではあります。

 

お礼を言って帰ろうとする瞳美を呼び止める将。

家まで送ることになります。

 

 

 

魔法屋の建物の前で、ばったり!

あさぎと会う2人。

 

 

あさぎは前回を経て、動きはじめています。

つくったポストカードをみんなに見てもらうべく、魔法屋に置きに来たのでした。

 

――で、動き出すということは、なにがしかに躓く(つまずく)こともあるものです。

止まったままなら何も起こりませんし、進みもしません。

将が瞳美を送ってくるという事態に、思わず後ずさるあさぎ。

「じゃあ私は」と小走りに帰ってしまいます。

それを追いかける将。

 

「ポストカードつくったんだ、偉いな。

 あさぎ」

「将君止めてください!

 私もう、小学生じゃないんです」

 

あさぎは保護される立場から抜け出して、1人の女性になるべく行動しているのです。

 

 

 

グラバー園のコスプレ大会が、行われます。

楽しげな部員たち。

 

しばらくすると、それぞれに個人行動になったようです。

 

風景を撮る将。

頼まれたのか、3人組の女性を撮る千草。

 

そして瞳美は、唯人を見つけます。

ベンチに腰掛け、タブレットに描く唯翔。

 

いつぞやとおなじように、画面をグシャグシャにしてしまいます。

うしろから近づく瞳美は、悲しい表情。

 

すると金色のサカナが飛び出し、色が瞳美を囲みます。

暗がりの通路を抜けると、そこは雨が降り、足元には花火や観覧車。

もちろんあの、金色のサカナもいます。

 

歩いていく瞳美。

すると雲が多くなり、やがて何度もタブレットに書いていた、画面をグシャグシャにする黒が。

 

ということで、はじめに瞳美が通路から見たものは唯翔の過去ですね。

金賞を取った、あの頃でしょう。

だんだんと歩き進めると、年を経て曇っていき……

グシャグシャにする黒い線は、最近のことをあらわしているように思います。

 

「どうしたら帰れるんだろう?

 誰かいませんか?

 誰か―!」

 

瞳美が誰かを求めたことで、それは核心に近づきます。

ここは唯翔の絵の中ですから、呼べば返事をするものは1人しかいません。

語らない繊細な唯翔の心に、どんどん近づいていってしまう瞳美。

 

荒れた砂漠を通り、ついた先はサカナの死骸。

通路を抜けてはじめに見た、楽しげな世界はもう、ここでは廃墟と化しています。

観覧車も埋まっています。

 

さらにその先。

色づいているのに、不吉な様相の沼のような場所が。

 

そこには網を持った男が、不気味な黒で存在しています。

男は腰をかがめ、小さなサカナを狙っています。

自分が沈みゆくことに気づかず、ひたすらサカナを求めて進みます。

 

「それ以上行っちゃダメ!」

 

沼の中に沈んだ男は、もう見えません。

沼の中へと追いかける瞳美の前には、死んで浮かぶサカナが。

 

そこで瞳美は目覚めます。

 

「大丈夫、月白さん」

「わたし、いま……

 葵先輩の絵の中にいた」

「絵の中に、入る魔法があるの?」

「わかりません。

 ひとつ怖いことが」

「なに?」

「絵の奥まで進んでいったとき、すごく荒れた場所になって、色とかもグチャグチャになってて」

 

驚く唯翔のカット。

 

「黒い影みたいな人がいたんです。

 ずっとサカナを追いかけてて、捕まえられないみたいで。

 もしかして、あの黒い人が邪魔をしているのかなと思って。

 そうだ、琥珀に相談してみたらどうですか?

 夢占いみたいに、何かヒントが見つかるかもしれないですし」

「いいよ!」

「でも、もし悩みとかあったら」

「いいって!

 心配してくれるのはありがたいけど、俺、全部話さなきゃいけないの?

 カウンセリングでもするつもり?

 魔法使いって、何様」

 

 言い過ぎたと気づくも、席を立つ唯翔。

 

瞳美は自分の身に起こったことに、興奮状態です。

落ち着いて考えるような時間もありませんでした。

あの黒い人とは、唯翔自身でしょう。

 

そしてどこまで話していいかを考えず、そのまますべて話してしまったのです。

それがどんなに当たっていることでも、だれかに秘密を知られる、覗かれる、予想される……

そんなこととは、嫌なものです。

たとえどんなに親しい間柄だとしても。

 

ましてやベンチに座るいまの2人の距離は、他人のそれです。

唯翔は逃げ出すように、そのまま帰ってしまいました。

 

 

 

屋根裏でうなだれる瞳美。

励ます琥珀。

 

「怒られるのもの、無視されるよりずっといいんじゃない?

 仲良くなれる気がするじゃん」

 

「大事なものほど棘があるからね。

 近づきすぎちゃったのかな。

 優しい距離が見つかるよ、きっと。

 棘で刺した方も、案外傷ついてたりするものだしね」

 

上手に励ます琥珀。

琥珀の中身はおばあちゃんではないか?

そう思ってしまうような、的確な言葉です。

 


さらに瞳美は、学校でも励まされます。


「こういう写真もあとから見ると、いい思い出になりそう」

「そうそう、お決まりの笑顔ばっかりじゃつまんないもの。

 それにね、絆って少し叩いた方が強くなるのよ」

 

 

 

叩いて強くなるものは結構たくさんあります。

鍛造なんてそうですね。

叩くとは違いますが、うどんなんて踏みつけてますからね。

そのおかげで美味しくなります。

 

 


この学校のシーン、ただのコミカルなシーンのように見えますが、意外と変化があります。

これまでの瞳美とは、嫌なことでもはっきりと口に出せなかったように思います。

頭に『怒りマーク』を貼り付けて、胡桃の「いい顔してるね、撮っていい?」に、「ダメです!」とはっきり主張します。

 

結果、顔は撮られてしまいますが、そこには感情の色があります。

それをあらわすかどうかは分かりませんが、胡桃にとられたあと、色見本のボードが映ります。

だんだんと、さまざまに、感情も色づいていくのでしょうか?

 

 

 

暗室を整理する瞳美が手に取ったのは、浅川砂波作品展の招待状。

先日の唯翔の買い物とは、どうやらこれのことのようです。


唯翔は1人、個展へ訪れます。

この雰囲気は、唯翔のかつての想い人でしょうか?

 

「先輩はなんで絵を選んだんですか?」

 

唯翔は自分の答えを先輩に求めます。

それは他人には透けて見えてしまうもの。

 

「迷ってるの?」

「最近なんか描けなくて。

 絵のこと言われたときも、後輩に逆ギレみたいなことは」

 

そこへやってきた2人。

琥珀と瞳美。

唯翔がやって来たときは降っていませんでしたが、外は雨。

 

傘を貸す先輩。

借りる唯翔。

 

それを見ただけで、なにかを感じてしまう瞳美。

踵を返して走り出します。

 

「風よ、彼の人へ!」

 

琥珀は瞳美の足を止めるべく、魔法を使います。

けれども傘を落としてなお、止まらない瞳美。

 

気づいた唯翔は走り出し、瞳美の傘を傘を拾ってさらに走ります。

追う唯翔を見た琥珀は、笑みを浮かべます。


「月白!

 月白!!」

「月白!

 オレ、描くから。

 いま描いてる絵、できあがったら、月白に見て欲しい」

 

はじめて唯翔から、はっきりとした行動を、言葉を、関心を向けられた瞳美。

その瞬間、世界は色づいていきます。

瞳美の乗る路面電車の先を、踊る金色のサカナ。

そのサカナのあとには、色があふれていく。

 


こうして唯翔は『先輩の傘を受け取らずに瞳美の傘を拾い、懸命に走って追いかけ、瞳美に渡すこと』を選びました。

つまりそれは、『先輩から答えをもらうのではなく、自分の力で懸命に描いて、誇れるものを瞳美に見せる』と、そう決めたのです。

 

 

それはこれまでにない、瞳美へ向けられるはっきりとした関心です。

スランプにもかかわらず、瞳美の望むように、『いま描いている絵を見せる』と宣言しました。

 

それは瞳美自身も求めたはずの、自分への関心です。

これまでに何度も、タブレットの絵が見たくて見たくて、それを覗き込もうとしていましたよね。

 

「ただいま」

「どうしたの! 瞳美!」

「さっき……

 色が戻ったの」


ずぶ濡れで帰り着いた瞳美。

『色が戻った』というには、あまりうれしそうではありません。

 

あまりの鮮やかさに当てられて、放心状態なのでしょうか?

色が戻ったのは一時だけのことだったのでしょうか?

自分自身や唯翔の感情に触れて、とまどっているのか?

 

どうやら来週へ持ち越しのようです。

 

 


持ち越しのようですが……

ここでは無理に想像を働かせてみましょう。

 

瞳美はこれまで、絵を見れば色づく。

『なんでかわからないけれど、そういうもの』と思っていました。

しかし、今回は絵を見ていません。

 

今回は唯翔の行動によって、瞳美の世界は色づきました。

ということは、色づくために必要なものとは『唯翔の絵』ではないのかもしれません。

 

……というか、もう絵ではありませんよね。

 

それに気づいてしまったのかもしれません。

それゆえに、瞳美はいろいろなことがわからなくなってしまったのではないでしょうか?


瞳美は60年後へと、帰ってゆくことが約束された存在です。

 

その瞳美が恋をしたら、どうなるのでしょうか?

 

そもそも、みんなで一緒に撮った写真は?

 

それぞれの記憶は?

 

……

 

 

こんなところで止めておきましょう。

 

 

「魔法は人を幸せにする、それから時々不幸にもする」

「注意してないと、自分の力に飲み込まれてしまうの」

 

琥珀の親子の会話とは、とても意味深です。

劇場版 響け!ユーフォ感想考察 届けたいメロディ~田中家で問題を解いてわかったこと~

 

  • この記事は、作品の具体的な内容に、深く、大きく関わります。

  「バレは困る!」という方は、残念ですが視聴後にご足労いただければ幸いです。

 

  • セリフはすべて聞き起こしです。

   間違いもあるかと思われますが、ご容赦ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ところであすかは、どうして久美子を自宅に呼んだのでしょうか?

 

数学がヤバそうだから?

それはそうですが、建前でしょう。

 

話がしたかった。

 

たしかにそう言っています。

 

ではなぜ、あすかは久美子に話がしたかったのでしょうか?

 

そこには『期待があったから』だと考えます。

その期待とは、励まし、支え、勇気づけ……

このような期待があったのではないでしょうか?

 

かつての京都府吹奏楽コンクールにて、あすかは久美子に「これで終わり」にさせてもらえませんでした。

 

・本番前のステージ上

 

「あんなに楽しかった時間が、終わっちゃうんだよ。

 ずっとこのまま夏が続けばいいのに」

 

表情に影があり、伏し目がちな先輩、田中あすか。

 

もう終わり。

そうはしたくない。

けれどもコンクールで選ばれず、部活動を終わらせられてしまうなら、それは仕方がない。

 

1人、終わりにするための言い訳を探し求める、あすか。

 

「何言ってるんですか、今日が最後じゃないですよ。

 私たちは全国に行くんですから」

 

そう言ってのける久美子。

 

あすかはいま、難しい状況に追い込まれています。

自分の意志を貫くことは難しく、さりとて簡単にはあきらめられない。

母親の壁は大きく、かといって「借り」もあるので、強引に突破することもできないし、したくない。

そんな状況です。

 

だから意識してか、あるいは潜在的な意識のなかでか、久美子の言葉、行動、存在といったものを求めたのです。

 

あすかは久美子に言いました。

父の曲をコテンパンにしてもらいたかったのかも、と。

それが本心の言葉のはずがありません。

あの曲とは、ずっと追いかけてきた父そのものです。

 

そこには『期待』があります。

 

そしてやはり、久美子は否定などしません。

潜在的なあすかの期待に応えて、『大好きです』と言ってくれるのです。

 

 

自分の決断ではなく、誰かに、周囲に終わらせられるということ。

それなら仕方ない。

そんなあすかの気持ち。

 

でも、久美子はそうはさせないのです。

 

府大会のステージでの、「今日が最後じゃないですよ」という言葉とおなじように……

古い日本家屋のあすかの家においても、「大好き」で「ずっと聞いていたいです。いま、吹いて欲しいくらい!」と言い、ユーフォニアムを響かせることを辞めさせないのです。

 

コンクールが関西、全国と続いたように、結果としてここでも送水管の元へと引っ張り出し、ユーフォニアムを響かせろと要求するのです。

それこそまさに、このときのあすかが求めていたことではないかと思うのです。

 

 

 

この田中家で数学を解くシーンでは、問題の1つが解かれました。

文化祭以降、気になって集中できない理由の1つ、『あすか先輩はわからない』という難問が解明されました。

 

あすかがユーフォニアムを始めた経緯を整理してみれば、文化祭でのセリフのやりとりの謎が解けます。

 

「先輩は本当に好きなんですね、吹奏楽」

「んー、そこはどうかな?

 黄前ちゃん、ユーフォ好き?」

「えーっと。

 改めて聞かれると、怖気づくというか、なんというか」

「私はね、好きなんだよ。

 コンクールなんてどうでもいいって思えるくらい」

 

 

 

また、麗奈はあすかを評して、電車の中で久美子にこう語りました。

『どちらかと言えば自分が吹ければいい、みたいな感じだったし』

 

その答えは、まさにその通りでした。

『私は遊びでやってるわけじゃない。一人で吹ければそれでいい』、ということだったのです。

 

あすかにとってユーフォニアム(ノートとパンフレットも合わせ)は、唯一の父親の贈り物です。

あの職員室での母親を見れば、ほかに何一つないであろうことはカンタンに想像できます。

 

ユーフォニアムを辞める。

吹かない。

手放す。

 

それはすなわち、父親との別れ。

 

そしてそれだけではありません。

あすかは母親を評して、こういっています。

 

「あのひと、ちょっとおかしいから」

「借りはあるから返さなきゃ」

「枷ね。一生外せない枷」

 

好きとか嫌いとか、感情的なわだかまりが解決せず、限界ラインを越えたとき……

人はあきらめます。

 

伝えても……

話し合っても……

喧嘩をしても……

 

分かり合えなければ、残念ながらいつか、それを無理だと受け入れるしかありません。

そうでなければ感情の葛藤状況が続き、大変なストレスです。

 

高校生のあすかにとって、これまでに何度も何度も、そう思わされることが繰り返されてきています。

職員室のやりとりで、あすかの辞めたくないという意志は、『出る杭は打たれる』のように引っぱたかれて無かったことにされます。

そしてそれは、『私っ、また…… カッとしちゃって』と、何度も繰り返されてきているのです。

 

やはり、分かり合えなければ、あきらめるよりありません。

もちろん自立した他者同士であれば、離れて距離をとったり、所属するコミュニティを変えたりして、相手と関わらないようにすることも可能です。

 

しかし相手は自分の母親で、あすかはその母親の子供です。

それはとても近く、濃い関係。

子供が一人で生きられるはずなどなく、さらには父親との接触を懸命に排除する母親ですから、あすかが生存するコミュニティを変えることなどできません。

この状況に直面したあすかが、好き嫌いでどうにかできるような自由はとてもありません。

幼いあすかは、目の前の事実を受け入れるしかなかったはずです。

 

ですがそうした中で、なんとかこれだけはと、必死に守り通してきたのです。

母に『当てつけ』だと言われようと、意地でここまで守ってきたのです。

 

『私は遊びでやってるわけじゃない』

ユーフォニアムとは父そのものであり、父との会話であり、日常における母親からの逃げ場であり、癒しであり……

 

あすかにとって、ユーフォニアムを吹くことのできる環境を守るということは、何よりも優先される重大事項なのです。

 

学校という母から隠れられる場所で、思いっきり父を抱きしめられる部活という時間。

 

それはソロが誰であっても、関係ないことです。

コンクールに出るかどうかも、全国を目指すかどうかも、関係のないことです。

(先の大会に進めば多少のモラトリアム的延長はありますが……)

 

父と娘。 

ユーフォニアムを吹くという大きな意味の前では、すべてはささいなことに過ぎなかったのです。

あすかの行動原理とは、これまでずっと変わることなく、父からのユーフォを守ることでした。

そのためには母親を黙らせる材料である学業にも、相当な時間、努力、結果が必要だったのです。

 

ユーフォニアムがまさしく、あすかにとって最愛の肉親をあらわすものであるなら……

それはつまり、だれがソロパートを吹くかということより、コンクールより、大事で当然です。

 

 

人間はモノに想いを投影します。

 

結婚指輪。

合格や安全、出産のお守り。

他人から見ればただのガラクタでも、捨てられない思い出の詰まった宝物。

 

あすかにとって、まだ見ぬ理想の父、ユーフォニアム奏者の父とは遠い憧れだったのです。

何度取り上げられそうになっても手離さず、大事にしてきました。

 

そしていま、存在しないはずだった父の姿が……

 

その手が届くところに現れてしまったのです。

それはあすかにとって、予想もしないことでした。

 

まさかの期待に、その姿を追いかけ、憧れるあすか。 

その想いは大きく膨らみ、冒頭の関西大会の言葉となってこぼれたのです。

 

滝先生に部長が指名されます。

その前に割り込んでの、あすかの言葉。

あすかの足元は、白。

 

「今の私の気持ちを正直に言うと、私はここで負けたくない」

 

驚く部長、驚く久美子のカットが続く。

 

「関西に来られてよかった、で終わりにしたくない。

 ここまで来た以上、何としても次へ進んで、北宇治の音を全国に響かせたい。

 だからみんな、これまでの練習の成果を今日、全部出し切って!」

 

珍しく自分から先頭にたって、他人にお願いするあすか。

いつも本音を見せないはずの、あすかの正直な気持ち。

それを間近で見てきた部長の晴香と、久美子は驚きの表情。

 

 

部に戻らない、戻れないあすか。

その想いは、果たして届けられるのでしょうか?

 

全国大会のその日、名古屋で……

劇場版 響け!ユーフォ感想考察 届けたいメロディ~近くの母と遠い父~

 

  • この記事は、作品の具体的な内容に、深く、大きく関わります。

  「バレは困る!」という方は、残念ですが視聴後にご足労いただければ幸いです。

 

  • セリフはすべて聞き起こしです。

   間違いもあるかと思われますが、ご容赦ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、重症です。

この問題は現在解けそうになく、状況は混迷を極めています。

あすか先輩を部に連れ戻すに、栗饅頭だけでは弱すぎます。

数学を勉強して理解しようとするのとおなじように、問題を解決するには、本質的な「何か」を理解することが必要なのです。

それは栗饅頭のような小細工ではありません。

 

 

勉強を教え、教わる2人。

やがて休憩することになり、お勝手へ。

 

なんと台所の流しがタイル張り。

もしかすると、水道は井戸では?

そう思ってしまうような雰囲気があります。

 

「あすか先輩は、わからないよ」と言って困っていましたが、久美子には触れにくいことにも直接切り込んでいく勇気があります。

それが久美子の持つ力。

 

「どうして急に、勉強みてくれるって?」

 

「ちょっと、話がしたくて」

 

差し出されるユーフォニアムの教本

著者、進藤正和はあすかの元父親であることが告げられます。

 

2歳のときに離婚。

あすかには父親の記憶はほとんどないとのこと。

 

「母親がね、絶対に関わらせたくないみたい。

 ほら、職員室で見たでしょ。

 あのひと、ちょっとおかしいから」

 

部屋の中央、照明あたりから俯瞰の視点で、身内のことを他人事のように語るあすか。

胡坐をかく、素足のあすか。

ここからはあすかの本音タイム。

母親へのあきらめ、どうしようもない割り切り……

 

「束縛が強くて、すぐヒステリックになるし……

 たぶんそれに嫌気がさして出ていったんだろうね。

 あっ、でも私、あの人のこと嫌いってわけじゃないの。

 ここまで育ててくれたわけだし、その借りはあるから返さなきゃって気持ちはちゃんとある」

 

横からのアングルになって、深く切り込む久美子。

 

「嫌いじゃないって言いましたけど、嫌いなんですよね?

 お母さんのこと」

 

それを口にするなんて、久美子はとんでもないクソ度胸の持ち主かもしれません。

麗奈曰く、「久美子って性格悪い」のとおり、本音で迫ります。

 

 

 

他人の家族の話題とは、一種のタブーです。

いくら本人が「俺の母ちゃんはどうしようもない」と散々嘆いていても、それを別の他人が「本当にそうだよな」と同意していいかどうかとは、まったく別の話です。

自分で言うのはOKでも、他人に言われたくないのが、家族の欠点です。

 

 

 

再び上からの視点でクッキーと紅茶が映ります。

 

「好きとか嫌いとかじゃない。

 だって母親は、どこまで行っても母親だから。

 どうあがいてもその人から生まれたという事実は動かない」

 

えぐるように切り込んだ久美子に、好きか嫌いかではなく、事実がどうかで答えるあすか。

しかし、そう言いながらも市松模様のクッキーの上で、迷うように動かすあすかの指先。

どれも同じ柄のクッキーで、味もおなじでしょう。

ならば本来は、迷う意味はないはずです。

(クッキーまでも和柄?)

 

「『枷』ね。一生外せない『枷』」

 

迷った挙句、嫌いとは言わずに『枷』だとズラして答えるあすか。

 

足枷を好む人がいるでしょうか?

いるはずがありませんね。

 

並ぶ靴のカットは、おそらく母と娘のもの。

足枷の連想でしょうか?

 

上からの視点は、自分のことなのに客観的に語らざるを得ないという、あすかのあきらめの部分。

 

横からあすかがアップになり、あすかの望みが語られます。

しかしそれは、母親には全く受け入れられていないという、否定の形で語られるのです

 

「あの人の中には明確な幸せの理想像があって、そこに吹奏楽は入ってない。

 最初から」

 

吹奏楽を、ユーフォを吹くことを、どんなにあすかが認めて欲しくても、それは母親には許されません。

職員室での『あてつけ』という言葉にあるように、あくまで母への反抗、逆らっている状態です。

 

それではなぜ、「娘の将来は私が決める」と言い切る母親のもとで、母親の理想から外れる吹奏楽をはじめることができたのでしょうか?

 

「じゃあ、どうしてユーフォを」

 

素足で胡坐をかく、ちょっと行儀の悪いあすか。

それは学校のような外出先と違って、身構えていない、ということでしょう。

同時に嘘で飾ったり、誤魔化したりもしていません。

ユーフォニアムを始めた経緯を、久美子に語って聞かせます。

おそらくそれは、はじめて他人に語る真実のはずです。

 

「いきなり届いたの。

 ボロいノートと手紙、それとユーフォが」

 

「でも、もちろんあの人は反対でさ。

 はじめは我慢してたんだけど、一向に辞めようとしない私と大喧嘩になって。

 それで、成績が悪くなったらすぐ辞めるってことになったんだ」

「だから……」

 

 

部活に来れなくなった理由が語られました。

 

今年の北宇治は、去年までの適当な吹奏楽部ではありません。

本気で全国を目指し、取り組んでいました。

去年のように、年功序列でコンクールメンバーを決めるようなことはありません。

オーディションでの選抜。

一度決まった結果でさえ、必死で覆そうと努力する香織と優子のような頑張り。

ハードな練習を重ねた合宿など……

 

勉学に廻せる時間は、去年に比べれば相当に減ったはずです。

 

 

「ずっと好きなことを続けるために必死だった。

 だから、まわりを見ていつも思ってた。

 『私は遊びでやってるわけじゃない。一人で吹ければそれでいい』って……

 

「バチが当たったんだろうね」

 

転んだあすかに、ひっくり返った久美子のカットが続きます。

 

母の帰宅時に閉じたノートパソコンに映っていたもの。

それが明かされる。

父、『進藤正和』は全国大会の審査員。

 

関西吹奏楽コンクールの控室で、部長の挨拶に割り込んだときのカット。

「ここまで来た以上、何としても次へ進んで、北宇治の音を全国に響かせたい」

あのとき、おどけることなく本心だけで激を飛ばしたのは、父に聞いて欲しかったから。

 

「全部私利私欲のため。

 で、その結果がこれ。

 ま、神様は見てるってことだよね」

 

自虐的に笑うあすか。

 

「私、あすか先輩のユーフォが好きです。

 合宿の朝、先輩一人で吹いてましたよね。

 あの曲聞いて思ったんです。

 私、『この音が好きだ!』って」

 

たとえ神様が上の世界からどう見ていようとも、久美子は近くで聞いていたのです。

誰よりもいちばん近い場所で。

 

そして合宿で吹いていた曲が、あすかの父のものであることが明かされます。

 

「私、大好きですよ!

 あの曲、あったかくて、なんか優しくて。

 ずっと聞いていたいです。

 いま、吹いて欲しいくらい!」

 

「黄前ちゃん。

 今日は珍しく積極的だね」

「あすか先輩が、いつもと違うんです」

 

 

 

いつもとおなじ場所では、おなじ事しか起こらない。

違うことが起こるには、違う場所が必要です。

あすかが黒い足元を脱ぎ去るには、部活や高校など、外出先ではいけません。

 

いつもと違う場所で、いつもと違う出来事を起こします。

これはあがた祭りにおける麗奈の愛の告白シーンもおなじ。

場所を動かすことで服装、表情、しぐさといったことを変え、出来事を起こし、変化をつくり出します。

 

内面、プライベート、極々私的なこと……

それを語るにはやはり、あすかの家である必要があります。

さらに、内側でありながら、母親が不在の状況が必要でしょう。

 

 

 

合宿であの曲を聞いてから……

あすかは久美子の憧れになります。

 

おなじユーフォニアム。

隣の席の2学年上の先輩。

 

あすかは先を飛ぶ飛行機で、久美子は飛行機雲。

 

 

 

オープニングの送水管の下あたりへ腰かける2人。

サンダルを履くあすかは素足。

いつかの麗奈とおなじ。

 

「こんなにユーフォっぽい子がいるんだって」

「褒めてます?」

 

ユーフォはあすかにとって、父の象徴。

意味はともかく、最大限の賛辞を久美子に送るあすか。

 

 

この一連のシーン、あすかの家を訪問するイベントで、あすかが『メロディを届けたい相手』が明らかになりました。

水管橋の下で、あすかが吹いたであろう曲。

その思いは、届けることができるのでしょうか?

 

その日、その時、その場所に行けば、あすかのメロディは届けられることがわかっています。

 

しかしいま、あすかの全国大会出場は厳しいものとなっています。

久美子が訪問して、あすかに本心をぶつけた。

それにあすかが「いつもと違う」場所で、「いつもと違う」こと、本心で答えることで、久美子とあすかの関係は大きく近づきます。

 

ですが、部へ戻るようにすることはできませんでした。

色づく世界の明日から 5話感想、考察

バレを含みます。

セリフは適当聞き起こしです。

 

 

今回は瞳美とあさぎを対比させながら、それぞれのキャラクターやストーリーを見せていく展開でした。

では、瞳美とあさぎの違いとはどんなことでしょうか?

順を追って、見ていきましょう。

 

 

 

なんと!

めでたく魔法美術写真部の認可が下りました。

パチパチパチパチ。

 

問題児の琥珀も、監視役がたくさんいれば先生も安心ということでしょう。

 

ということで、後日に懇親会を開催することになります

 

 

 

琥珀は魔法部として1人で屋上に出張し、占い屋さんをはじめます。

胡桃とあさぎは、様子見ついでに恋愛占いを。

 

はてさて、あさぎの恋愛運はいかに?

 

「いまのままだと、恋愛運は最悪。

 ライバルが現れて、彼の気持ちは遠のいていきます」

 

よくないフラグがあさぎに立ってしまいました。

胡桃は、まぁ、やる必要はないですよね。

 

「無理っぽいな」

「いいからちゃんと占ってよ」

 

そりゃ琥珀でなくても占うことは嫌でしょう。

傍から見ていれば、あの様子はカップルです。

なかなか胡桃と千草のあいだに割込みをかける男はいないでしょうし、もう『すでに彼氏がいる』とも考えられますからね。

 

 


将はあさぎの家業、写真館でアルバイト。

 

「おぉ!

 いい写真じゃん。

 相変わらずウサギ祭りだな」

「だって、好きだから」

「せっかく写真上手いんだから、もっと見てもらえばいいのに」

「そんなの、恥ずかしい」

「お店のギャラリーに飾るとか、ポストカードにしてみるとかさ。

 やってみないとわかんないじゃん」

 

椅子に座るあさぎ。

背もたれに手を乗せ、あさぎのパソコンを覗き込む将。

2人の距離そのものは近いのですが……

 

 

 

琥珀母娘はどこかへお出かけへ。

『捨てられた仔犬みたいな眼』をした瞳美が店番をすることになってしまいます。

まるでこの時代に来たばかりのときのようですね。

 

「いつものやつくださいな」

「いつもの?」

「そう、赤い星砂」

 

カウンターのうしろはカラフルな瓶が並びます。

しかし、相変わらずのモノクロで、濃淡しか瞳美にはわかりません。

 

「懐かしい夢が見られるやつね」

 

琥珀の母の話していたことを思い出し、なんとか対応します。

 

 

「いつか自分の魔法が必要になる。

 そんな予感がするんだって」

 

おばあちゃんが様子を見にきて、『最近の琥珀は魔法の勉強を頑張っている』ということを知ります。

琥珀なりに『未来の自分が瞳美を送り込んだ』という事実に、責任を感じているのでしょうか?

 


なんとか店番を頑張る瞳美に、1つの報酬が訪れます。

唯翔が個展を開く知り合いのための手土産を買いに店を訪れたのです。

 

「じゃあ、それお願い」

 

唯翔とやりとりする瞳美は、捨てられた仔犬とは程遠い表情。

まるでご主人様に褒められた仔犬のような笑顔です。

 

「新しい絵、どうですか?」

「あー、最近思ったようなものが描けなくて。

 絵に効く星砂とか、あればいいのに」

 

『あればいいのに』ですから「本心から他力を求めた」のではなく、どちらかといえば冗談とか愚痴のたぐいでしょう。

けれども瞳美は一生懸命に探します。

さらに帰ってきた琥珀に相談までします。

 

「何かある? いい魔法」

「んーーっ。

 なんだか珍しく魔法に対して前向きじゃない?」

「だって、色のある絵が見られるかどうかは、私にとっても大切な問題だから」

「そんだけ?」

 

冷かす琥珀。

気づかない瞳美。

 

「それに、琥珀も魔法の勉強頑張ってるって聞いたから」

「じゃあ、自分で星砂つくってみなさい」


「やってみる」

 

星砂を自分で作ることになりました。

 

 


「何でも挑戦!」

 

自販機の前で固まる瞳美。

将が現金の使い方を教えます。

その流れから、現像の仕方をレクチャーするシーンへ。

 

「モノクロが撮りたいんなら、フィルムをつかってみるのも面白いと思うよ」

 

暗室の暗さを利用して、部室の中で魔法の練習。

しかし、ささやかな光が一瞬きらめくのみ。

 

「本当は、プラネタリウムのようになるはずなんです……」

「けど、そんなに魔法に積極的だったっけ?」

 

思い出される唯翔の顔。

 

「私の魔法が、誰かに喜んで貰えるなら、やってみようかなって」

 

 

『前向き』に続き、『積極的』。

琥珀に続いて将も、瞳美の変化を感じているようです。

 

 

「レシピ通りなのに、なんで」

 

自宅で繰り返してつくるも、なかなかうまくいきません。

黒焦げの砂が入ったビニール袋が、流しの中にも、床にも置かれています。

 

「アーッ、もう!」

 

夜の公園では、唯翔がタブレットの画面をぐしゃぐしゃにし、頭を掻きむしります。

瞳美も唯翔も上手くいっていないよう。

 

唯翔はベンチに寝転がってしまいます。

瞳美はなおも続けます。

 

瞳美のイヤリングが輝き、魔法の作成に成功かな?

フライパンが輝きます。

 

 

そんなこんなで胡桃から、決起集会の予定が決まったことが知らされます。

 

知らせを見て将の言葉、『やってみないとわかんないじゃん』を思い出すあさぎ。

「できないよ、わたし」とつぶやきますが、視線は大好きなウサギへ。

 

 

 

決起集会当日。

『やってみた』2人が先に集まります。

 

瞳美がまず、「これ、どんな色に見える?」と星砂を見せます。

「私もこれ、つくってきたんです」とクッキーを取り出すあさぎ。

 

「小さい頃から引っ込み思案で……」

「友達は将君だけでした」

 

あさぎは思い出を語ります。

 

「ちょっと似てますね、私たち」

 

2人のお互いに似ているところを共有しました。

 

そこへ男子チームがやってきます。

 

餃子にポテトフライ、から揚げ、とんかつ……

テーブルの上は、男子の好きな茶系のメニューで埋め尽くされます。

残念ながら、クッキーのあまい香りは台無しですね。

 

乾杯して始まる集会。

 

途中、裏にこもって砂を袋詰めする瞳美。

 

「おめでとう!

 すぐに渡してあげなよ」

 

みんながいることを気にする瞳美に、琥珀は背中を押します。

 

「あっ、しまった!

 ジュースが足りない。

 瞳美、唯翔さんと買ってきて」

 

ジュースがないという口実で、強引に買い物へ行かせる琥珀。

唯翔と瞳美は買い物へ。

 

「ちょっと、寄り道していい?」

 

その途中、展望台に立ち寄ります。

 

「あの、これっ!

 こないだ、いいのを選べなかったから、かわりにつくってみました」

「えっ」

「前に約束した、星を出す魔法。

 星砂にしてみました。

 気分転換にどうぞ」

 

「楽しみにしています。

 次の絵」

「あのさ、前言ってたよね。

 俺の絵にだけ色が見えるって」

「はい」 

「それって月白さんにとって、必要だってこと?」

「はい」

「なんでかな」

「わたし、もう何年も色がわからずに過ごしてきました。

 空の色も、花の色も、夕日も虹も。

 だから、いろんなものを諦めてて……

 でも先輩の絵をはじめてみたとき、目の前が色であふれて。

 まるで、私に色を思い出せって言ってるみたいで。

 どうしてかはわかりませんが、私にとって先輩の絵は、とても大切なものに思えるんです」

「そっか、今晩、星砂つかってみるよ」

 

 

 

瞳美は星砂を完成させ、渡すことができました。

 かたや、残された部員たちの様子はどうでしょうか?

 

自販機の前で固まっていた瞳美の話を持ち出し、瞳美を持ち上げる将。

 

「あさぎも、これからは先輩になるんだし、自覚持てよ。

 もう少し積極的に――」

「――瞳美ちゃんみたいにですか?」

「あ、ああ。

 まあ、そういうこと」

「わかりました、部長」

「どうしたんだよ、あさぎ」

「鈍感!」

「将君て、そんなんだからテーブルの上も茶色にしちゃうんです」

 

席を立つ、あさぎ。

せっかくの手づくりのクッキーも、何も言ってもらえなかったようです。

あさぎなりに『やってみた』のですが、『将には届かない』、『きづいてくれない』という結果になってしまいました。

 

「占い、当たっちゃいそう?」

 

追いかけてきた琥珀。

 

「占いって、ヒントでしかないよ。

 未来を決めるのはいつも自分」

「瞳美ちゃん、はじめて星砂つくったって」

 

それを聞いた琥珀は、瞳美が『未来を決めようとした努力』を『カタチ』で見せます。

段ボールに詰められていたのは、ただのゴミではありません。

その失敗作とは、瞳美の時間であり、努力であり、試行錯誤であり、想いでもあります。

 

それがあさぎを勇気づけます。

 

「瞳美ちゃんに声かけたのは、あたしに似てるって思ったから。

 けど、そうじゃなかった。

 私も変わりたいな」

「きっと大丈夫!

 そのへんは占わなくてもわかるから、私」

 

いい流れになったところで、オチが付きます。

瞳美の努力に比例して、すっかりなくなってしまった材料たち。

 

「手っ取り早く成功させようとして、教える琥珀のほうが手を抜いてんじゃない!」

 

 

 

 

後片づけをする部員たち。

さっそく変わろうと行動する、あさぎ。

 

「将君。

 私、ウサギのポストカードつくってみようかな」

「あぁ、いいんじゃないか」

「将君も手伝ってくれる?」

「おお、もちろん」

 

そのまま敬語の理由、中学校の話に。

付き合っているのかと冷やかされ、距離をとるためのものだったようです。

 

「いいんです。

 敬語にもなれちゃったから。

 いまはこのままで」

 

あさぎは『1度くらいの行動ではそう簡単に変わらない』ということを、瞳美の失敗から知りました。

だからこそ、ポストカードのように挑戦がいくつも必要なのです。

 

だから、あくまでも、――『いま』はこのままでいい――ということですね。

だんだんと未来は変わっていくのです。

 

 

 

 仲良く責任を取って星砂を洗う2人。

 

「星砂は渡せた?」

「うん」

「よかったじゃん!

 あくまでも気分転換くらいしか効果はないけどね」

 

 


『寝る前、部屋を暗くしてつかってください』

 

手紙の通りにつかってみると、唯翔の部屋の中はまるで宇宙のように。

ささやかな流星。

飛び跳ねる金色の魚。

 

暗室で将の前で見せたモノとは全くの別モノです。

瞳美の成長がハッキリと見えます。 

 

その魔法はお店で売っているような星砂ではありません。

瞳美が唯翔の絵に見ている世界の、ほんの一部をあらわしたもの。

 

「唯翔の絵」から瞳美が受け取った、きらめいて、鮮やかに色づく、そんな感動の世界を再現するには、まだまだ瞳美の力は足りません。

 

そこで疑問なのですが…… 

そもそも自分で色を見られないのに、光と暗闇でつくる世界以外の『鮮やかな世界を写す星砂』とは、瞳美につくれるのでしょうか?

 

タブレットに金色の魚が飛び込んだという描写は意味深です。

 

前回のお話では、たしか唯翔はこういっていました。

「モノクロ写真って水墨画とおなじで、色彩がない分、見ている人のイメージが広がるような気がする。

 色が少ない方が、大事なものが良くわかるのかもしれない」

 

はたして唯翔は、これで描けるようになるのでしょうか?

あるいはスランプは混迷を極め、瞳美と一緒に色を探すような展開になるのか?

はたまた別の道が待っているのか?

 

 さてさて、次回はどうなることでしょうか?

 

 

 

 瞳美の努力、姿勢の変化は、だんだん周囲に広がっていきそうです。

少なくとも今回、あさぎはその影響を受けました。

 

自分とおなじように見えていても、おなじとは限らないのです。

そしてまた、変わるためには何度もトライが必要です。

それを知ったあさぎは、自分の写真を見てもらうためにポストカードをつくることにしました。

それは同時に、将に自分を見てもらうためでもあるのです。

劇場版 響け!ユーフォ感想考察 届けたいメロディ~夏紀先輩の想い、田中家という敵の城へ~

 

  • この記事は、作品の具体的な内容に、深く、大きく関わります。

  「バレは困る!」という方は、残念ですが視聴後にご足労いただければ幸いです。

 

  • セリフはすべて聞き起こしです。

   間違いもあるかと思われますが、ご容赦ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・久美子のマンションのホール

 

姉の麻美子と秀一がマンションの入り口でばったり行き会います。

秀一は学校帰りでしょうか。

夕方のようです。

 

「久美子、一度くらい麻美子さんに聞いてもらいたいんじゃないかって。

 ほらアイツ、麻美子さんに憧れて吹奏楽、始めたんだし」

 

秀一の言葉をきっかけにして、麻美子の回想。

吹いて欲しいとねだる、幼い久美子。

川べりのベンチで聞かせた記憶。

 

幼い久美子に聞かせたベンチで、黄昏時を迎える姉。

昔のことを、ずっと長い時間、思い出していたのでしょうか。

 

「忘れた」

 

 

 

・音楽室

 

滝先生がついに、責任者として判断を下します。

 

「田中さんが今週末までに部活を続けていけることの確証が得られなかった場合、全国大会の本番は中川さんに出てもらうことにします」

 

滝の宣言。

座る人のいない、あすかの椅子。

 

全国大会へのタイムリミットは、もうそこまで来ているよう。

 

 

 

・学校の玄関

 

久美子に問いかける形で、自分の不安を吐露する夏紀。

 

夏紀ははじめから、「こうなりそうだ」と知っていたことが明かされる。

学校を休んだのに部活に来た、あの日。

おそらくその日のことだろう。

 

 

 

・音楽室

 

久美子のモノローグ

「夏紀先輩の譜面、あすか先輩の字でたくさんアドバイスが書かれてる」

 

『吠えろ全国!』のアップ

 

「まるで遺言みたい」

 

樹々に隠され、あるいは囚われたような、鳥が羽ばたく像のカット。

あすかの姿は、樹々に隠されるように、だんだんと見えなくなりつつあります。

 

 

*この像は、卒業式後にも映ります。

 

 

 

・空き教室

 

「連れ戻す?」

「無理です!

 そこでお母さん説得してこいって言うんですよね?」

「まあね」

「無理ですよ。

無茶言わないでください」

 

簡単に連れ戻せという夏紀に、久美子はそれが意味する、もう1つの事実を言わずにいられない。

 

「あすか先輩が戻ってきたら、夏紀先輩吹けなくなります」

 

窓ガラスに映る夏紀が答える。

 

「私はいいの、来年もあるし」

 

カーテンを掴んで久美子、「それは夏紀先輩の本心ですか?(隠してませんか?)」

カーテンは部屋の中が外から見えないよう、遮るもの。

 

「黄前ちゃんらしいね。

 うん、本心だよ」

 

夏紀の口元が手前に、奥に大きく窓ガラスに映った夏紀の顔。

 

2つの顔が映る。

 

つまり、出たくもあるが、先輩が吹くことが1番でもある。

 

せっかくのチャンス。

でも、オーディションで選ばれなかったという、厳然たる事実。

 

 

 

麗奈のときのようにうっかりでも、今回のように正面からでも、相手の本心にこだわるのが、「黄前ちゃんらしい」。

まわりからも、そう認識されているようだ。

 

 

 

・玄関で久美子を待つ、あすか

 

今回ばかりは麗奈にもヒントはもらえませんでした。

 

「私、パートも違うから、あすか先輩のことよくわからないし」

 

解けない難問の象徴、数Iの教科書を見つめる。

 

 

玄関のあすかは、いつもの黒ストッキング。

あすかの家へ。

 

あすかの自宅は、立派な日本家屋。

和風の庭に、立派な欄間。

なくなった先祖の写真が掛けられ、『古き良き田舎の本家』のたたずまい。

 

 

 

ここは伝統的な日本家屋。

伝統とは、安易に変わらないものです。

 

あすかも、あすかの母親も、伝統的な日本家屋が示すように頑固です。

 

 

 

久美子は緊張感からか、慣れない正座で畏まっています。

 

部屋の本棚には参考書や赤本、なんと六法全書まで。

部屋の天井角、上からのアングルでも、およそ女子高生らしいアイテムが何一つとしてない、畳敷きの和室。

あすかの素足の膝小僧が映り、香織先輩や夏紀先輩の意向を受けての賄賂を、自分の背中に隠す久美子。

 

「じゃあ、ちょっと見せてもらおうかな」

 

数学のノートを差し出す久美子。

 

「うむ

 お嬢さん、これは重症ですぞ」

 

 

今回はここまで。

 

夏紀先輩の窓ガラスに映るシーンは、とても印象的です。

ある意味では主要キャラのあおりを受け、1番翻弄されたのかもしれません。

 

全国大会へ出場するメンバーにまじって、練習に参加し続ける。

それは『本当に出場してしまう?』という期待を抱かずにはいられないでしょう。

できるのかという不安、あすかが戻ってきた方がという気持ち。

あらわれていない葛藤が、ものすごくあったはずですから。

 

劇場版 響け!ユーフォ感想考察 届けたいメロディ~2人の姉~

 

  • この記事は、作品の具体的な内容に、深く、大きく関わります。

  「バレは困る!」という方は、残念ですが視聴後にご足労いただければ幸いです。

 

  • セリフはすべて聞き起こしです。

   間違いもあるかと思われますが、ご容赦ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あすかがいなくなるという混乱がありましたが、北宇治の吹奏楽部はたしかな成果を手に入れました。

 

部長の晴香の成長。

晴香のお願いに応え、1つにまとまりを取り戻した部員たち。

そして駅ビルコンサートの成功。

 

コンサート後の快晴の空は、まさにその成果を称えるものでしょう。

 

空模様とは、晴れることもあります。

ですが、決してスッキリとした晴ればかりではないのです。

 

 快晴の空のあと、どんな天気が待っているのでしょうか?

 

 

 

 

・あすかの部屋

 

快晴のコンサートの次は、しとどに降る雨。

成果で上げたら、そのあとは下げます。

 

 

夜。

窓に映る水滴、天気は雨。

優しい雨垂れ。

 

思い出のノートを、カタログを、眺めるあすか。

カタログには銀のユーフォと、金のユーフォが並んでいる。

それを見て、かわいい後輩を思い出し、やわらかに微笑むあすか。

 

 

 

・久美子の部屋

 

やはり雨だが、こちらの雨音は激しい。

おなじ雨ですから、だいたいおなじ時間。

あすかの部屋と、久美子の部屋(家)の様子は、違います。

 

テスト勉強にてこずる久美子。

数学の問題が解けないようです。

 

どうやらリビングから、言い争う声が聞こえてきます。

 

部屋のドアを開けた先、黄前家の中も土砂降りの様子。

 

濡れた鞄。

濡れたサンダル。

濡れた廊下。

濡れた傘。

 

 

 

びしょ濡れの麻美子が、リビングで叫ぶ。

 

「久美子みたいに部活を続けたかった。

 トロンボーンだって辞めたくなかった!」

「そこまで思っていたなら、大学入る前に言うべきだったんじゃないか」

「言えない空気つくったの誰よ」

「たしかに父さんも母さんも、お前に負担を強いてきたかもしれない。

 だが、それでも大学に行くと決めて受験したのはお前自身だ。

 もし本当に辞めるなら、この家から出ていきなさい。

 生活費も美容師になる費用も、自分でなんとかしろ」

 

「本気なら覚悟を示せ」

 

麻美子が突然、美容師になりたいと言いだし、揉める親子。

 

騒動ののち……

ほつれ髪で椅子にうなだれる失意の姉に対して、なぜか久美子までが、追い打ちを掛けるかの如く、冷たく言葉を叩きつける。

 

「お姉ちゃん、大学辞めるの?」

「辞めたら意味ないじゃん!!」

 

強い口調で責める久美子。

 

「あんたには関係ない」と立ち去る姉に、過去の記憶がリフレインする。

幼い久美子は言う。

 

「おねえちゃん、なんで辞めちゃうの」

「別に」

「わたし、お姉ちゃんといっしょに吹きたい」

「うるさい」

「ねえおねえちゃん」

「うるさいって言ってるでしょ!

 次に変なこと言ったら、あんたの口縫うからね!」

 

 

 

・学校の廊下、水飲み場のシーン

 

学校の水道で水を汲む久美子のもとへ、秀一がやってくる。

 

思わず秀一の反対側へと、体を引く久美子。

いまだに何か意識しているようだ。

 

「麻美子さん、大学辞めるのか?」

 

「知らないよ!

 お姉ちゃん、大学行ってからほとんど話してないし」

 

 

 

・音楽室のシーン

 

「田中あすか、帰還しました!!」

 

珍しくあらわれた、あすか先輩。

心配して取り囲む部員たち。

 

久美子の隣の席へ、座るあすか。

 

「おはよう!

 どう? 調子は!」

「ぼちぼちです」

「相変わらず黄前ちゃんは黄前ちゃんだね」

「どういう意味ですか?」

「褒めてるよ、いちおう」

 

ほかの部員と違い、心配の声を掛けない久美子。

あすかの質問に、「心配してましたよ」、「来てくれてよかったです!」、というようにはせず、聞かれたことへの答えだけ。

「(調子は)ぼちぼち」と返すだけの、そっけない久美子。

あすかは「ぼちぼち」が物足りなそうな様子です。

 

 

 

あすかは久美子と吹きたかったのです。

 

あすかは実の姉の麻美子とは違います。

しかし、部活においてはかわいい妹の成長を見守り、それを導く。

まさに『姉の役割』です。

入学以来、久美子のユーフォニアムの成長を間近で感じています。

 

低音パートの仲間としての日常。

「田中さん1人でやってください」と、なかば死刑宣告をされたとき。

「安定感が出てきました」と、合宿で褒められたとき。

 

おなじ楽器で、となりの席で。

 

良い時も悪い時も一番近くで、見つめ、聞いていたなら、それは特別です。

さきほど雨のシーンでも、ユーフォニアムのチラシを見て久美子を思い出していました。

 

つれない「ぼちぼち」という答えでは、さみしすぎます。

 

 

 

一方の久美子は……

あすか先輩と、重なる姉の姿。

どうしようもない不安。

「ぼちぼち」とは、精一杯のつよがりか。

 

 

 

・音楽室の倉庫

 

「あの……

 あすか先輩、辞めないですよね?

 辞めない、ですよね。

 辞めなっ――」

 

口を縫う、もとい、指で押さえて言えなくする、あすか。

 

「あんまりしつこいと、その口縫っちゃうよ」

 

姉とおなじように『辞めてしまうのではないか?』と、不安に駆られる久美子。

姉とおなじように、『口を縫う』といって、久美子を黙らせるあすか。

 

「そうだ、黄前ちゃん。

 中間大丈夫?」

 

あすかの家で、数学を教わることになります。

今回は偶然ではないが、あがた祭りのときのような急展開。

 

 

 

先輩のあすかは、自分を慕ってくるおなじユーフォニアムを吹く妹分の久美子を無下にできません。

自分の部屋で思い出すほどに、気に掛けているのです。

 

さらに、それだけではありません。

たんなる妹分、低音パートの仲間……

それだけではないのです。

 

あすかにとって久美子は、明確にほかの部員たちとは違うのです。

ほかの部員のように、ただ心配してくるだけの存在ではありません。

 

黄前久美子とは、田中あすかにとって自分の本心を告白させる存在です。

 

「正直言って、心の底からどうでもいいよ。

 誰がソロとか、そんなくだらないこと」

 

「私はね、好きなんだよ。

 コンクールなんてどうでもいいって思えるくらい」

 

そう、一貫して『どうでもいい』と言っているのです。

それはただ投げやりではなく、別の大事なことがあるから。

 

誰がソロであろうとも。

コンクールがどうであろうとも。

 

『どうでもいい』理由を語るべき相手は、その言葉をあすかから引き出してしまった久美子以外に、存在しません。

 

もしこれを誰彼の区別なく、無制限に喋りまくっていたらどうなるでしょうか?

個人差があるにせよ、一生懸命に取り組んでいるはずの部活動。

それについて、「どうでもいい」を連発するのです。

 

部活でも、学校でも、仕事でも……

あまりにやる気のない発言を連発する人とは、距離をとって近づきたくないと感じるのが自然でしょう。

 

そういう人と一緒にされたくない。

トラブルになりそうだから避ける。

集中力がなくて、事故を起こしそうで嫌。

 

 

そんな人物が副部長になることがあるでしょうか?

ドラムメジャー、入学式や文化祭の指揮者。

それを任されるでしょうか?

 

そんなはずがありませんよね。

 

久美子だって、混乱していました。

「あすか先輩は、わからないよ」

 

こうした危険な秘密の本心を語るのは、限られた相手だけのはずです。

あなたもそうではないでしょうか?

 

するとやはり黄前久美子とは、田中あすかにとって自分の本心を告白させる、ほかには存在しない特別な何かなのです。