劇場版 響け!ユーフォ感想考察 届けたいメロディ~田中さんと黄前さん、両家の様子~
- この記事は、作品の具体的な内容に、深く、大きく関わります。
「バレは困る!」という方は、残念ですが視聴後にご足労いただければ幸いです。
- セリフはすべて聞き起こしです。
間違いもあるかと思われますが、ご容赦ください。
やってきた人とは、当然この人。
田中あすか先輩です。
すでに前回のフィナーレのシーンで、このキャラクターに対して違和感を提示してあります。
前作のラスト、コンクールの本番前に、久美子に漏らします。
これから目標にしてきた全国大会出場をかけて演奏するのに、すでに終わっているかのような言い方でした。
「あんなに楽しかった時間が、終わっちゃうんだよ。
ずっとこのまま夏が続けばいいのに」
「関西大会へ出場するのは~」という結果発表後、肩を寄せ合ったり喜んだりする部員たち。
しかし、田中あすかただ1人だけ、目を伏せてしまったのです。
その彼女が、麗奈と別れた久美子の元へと、入れ替わるようにやってきます。
いつぞやのキス顔で驚かせたときのように、いたずらと共に登場する、あすか先輩。
本番前で緊張する久美子に忍び寄り、うしろから髪の毛を掴んで驚かせます。
さらに久美子の頭を撫でながら、お姉さんぶるあすか。
「なんだかんだ、まだ1年だね」
「先輩、なんかうれしそうです」
「うん? だって、全国だよ。
そりゃ嬉しいよ。」
「先輩は本当に好きなんですね、吹奏楽」
「んー、そこはどうかな?
黄前ちゃん、ユーフォ好き?」
「えっ! えーっと。
改めて聞かれると、怖気づくというか、なんというか」
「私はね、好きなんだよ。
コンクールなんてどうでもいいって思えるくらい」
あすかの口元が中心に写り、「どうでもいい」というあすかを直視することが、はばかられる演出?
笑いながら、「冗談」と話を切り上げるあすか。
明確な意思を示しながら、「冗談」とぼやかし隠すのは、あすかのいつものスタイル。
全国に行くことは嬉しいのに、コンクールはどうでも……いい?
言っていることが理解できず、思考停止する久美子。
・本番前のあすかの挨拶
「全日本吹奏楽コンクールは ~
名古屋でおこなわれます……」
そこまで話すと、挨拶の途中で言い淀んで、束の間、うつむくあすか。
それに敏感に気づく久美子。
先ほどの会話だけでなく多くの伏線が張られ、久美子はあすか先輩のことをどう捉えていいのか、ずっと困っています。
そういう相手の一挙手一投足とは、気になってしょうがないものです。
好きな相手はもちろんですが、本来は気にしたくない嫌な奴や、困ったちゃんの言動とは、注意が向いてしまうものです。
誰でも覚えがあることですよね?
田中あすか先輩とは、久美子にとって困った人です。
『田中あすか』は『高坂麗奈』とおなじ足元です。
そして黒い足元とは、この作品において大きな役割を持つ者ということを示しています。
久美子にとって、ちょっと困った人なのです。
麗奈に対し、あがた祭りまではどう接していいのか、あからさまに困っていました。
ひどい顔芸状態でしたよね。
おなじようにあすか先輩について、これまで挙げたようないくつかの伏線を経て、困った状態になりつつあります。
滝のうわさ、オーディションにかかわる話の1場面でも、ありました。
香織先輩がソロパートを練習する場面を久美子が目撃したときのこと。
そのときあすか先輩は窓枠にペットボトルを置き、語りました。
「正直言って、心の底からどうでもいいよ。
誰がソロだとか、そんなくだらないこと」
私的な意見を求めてしつこく食い下がったのは、たしかに久美子です。
ですが部内を引っ掻き回すような話題について、「どうでもいい」「くだらない」とばっさりと切り捨ててしまう。
それについて久美子は、心中をモノローグで語ります。
「それが本音なのか、建前なのか……
それを知るにはあすか先輩の仮面は厚く」
冗談か本音かはともかく、こんな人が自分のパートのリーダーなら、その人物紹介には注意書きがつきますよね。
いい人ではあるけど……
楽器は上手、リーダーシップもある。
みんなが一目置いている。
でも……
・本番後の挨拶、片付けのシーン
秀一、夏紀先輩と登場させて人間関係の紹介。
部長の挨拶があり、その挨拶も途中からあすか先輩にバトンタッチしてまとめる。
あすか先輩は『頼りがいがある』んだよ、という見せ方。
さらに吹部の人物紹介、雰囲気を見せるシーンが続きます。
久美子のモノローグ。
あすか先輩の紹介を入れながら、久美子が先輩について、どう思っているかが語られる。
「いつも思う。
あの先輩には、いったい何が見えているんだろう。
……でも、それを考えるのは少し怖かった」
・あすかの部屋のシーン
全国大会のホームページを見るあすか。
そこへ母親が帰宅したようです。
声を掛けられ、自分の部屋にあるノートパソコンにもかかわらず、モニターを倒して万が一にも見られないようにする、あすか。
1度傾け、2度目でさらに倒し、3度目で完全に閉じて見えなくする。
なんども思い直して隠そうとする様子から、絶対に見られては困るもののようです。
その画面には、何が映っているのでしょうか?
吹奏楽コンクールについてのようですが、それだけでそこまで隠そうとするものでしょうか?
母親のいるキッチンへ行くあすか。
帰宅した母親との会話は、なんだかどうも、ちぐはぐでかみ合わないものに聞こえます。
話をしようとするあすかに、「なに?」と聞き返しているのに、なぜか自分のしたい話を優先してはじめてしまう、あすかの母。
母親からは、全国模試について期待していることが告げられます。
それを聞いたあすかは気が削がれ、話したいことを言いださずにやめてしまう。
ノートパソコンがチラッと映り込みますので、全国大会、あるいは吹奏楽にかかわること。
流れからすると、今後の合宿の話をしようとしたのかもしれません。
ここは普段から『田中家はこんな様子』、ということが示されるシーン。
どうやら夕飯の支度もあすかの役割のようでした。
・音楽室
合宿の予告。
滝先生と、ゲスト講師のコント。
・帰り道のシーン
心ここにあらずな久美子。
久美子のモノローグ。
文化祭以降、あすか先輩のことがずっと引っかかっている久美子。
「私はね、好きなんだよ。
コンクールなんてどうでもいいって思えるくらい」
その発言が本心だとすると、裏切られたような気がして、でも、そう考える自分も嫌で……
どうにも落ち着かない久美子。
・黄前家、リビング
田中家の次は、主人公の家、黄前家の様子です。
珍しく父親も、早い時間なのに帰宅している黄前家。
このシーンは矛盾の応酬でできています。
「あれ、お父さんいる」
久美子は低い声で驚き、少しも嬉しそうな様子はありません。
姉の麻美子が、久美子の全国大会出場を驚き、『おめでとう』と言っていたと母親が久美子に語ります。
ここは部活上げ、吹奏楽部上げです。
父が「部活もいいが、勉強はしてるのか?」と言い、久美子の「ぼちぼち」という答えに、ため息で返す。
母は姉の麻美子が祝福していたと自分の口で久美子に伝えたばかりなのに、それを早くも忘れてしまったかのように部活を『下げ』ていきます。
「麻美子はあんたの年には楽器辞めて、勉強してたんだからね
ちょっとは見習いなさい」
久美子は牛乳を一気に飲み干し、音を立ててコップをドンと置く。
「はいはい。
お姉ちゃんは偉いよね」
荒っぽい様子からして、久美子は姉のことを言葉通り「偉い」とは思っていません。
ギスギスした家族の雰囲気なのに、幸せそうな集合写真のカットが。
黄前家において、過去と現在は違いますよ、という提示がされました。
昔の黄前家は、いまのような家族の姿ではなかったようです。
逃げるように部屋へと戻り、開けた扉の先には、過去が……
回想の中の幼い久美子は姉に吹き方を教わる。
けれど次には………
「トロンボーン、辞めちゃうの?」
「あんたに関係ないでしょ」
……麻美子に相手にされず。
どうやら姉がトロンボーンを辞めるとき、久美子とのあいだに何かがあったよう。
もしかするとそのあたりから、リビングに飾られた幸せそうな家族写真とは、変わってしまったのかもしれません。
このシーンからすると、両親は久美子の部活動に賛成とは思えない言動です。
吹奏楽に対して姉の祝福の言葉で1度上げておき、それをひっくり返すかのように、姉の「麻美子はあんたの年には楽器辞めて、勉強してたんだからね。ちょっとは見習いなさい」というプレッシャーのかけ方をする。
こういうコミュニケーションは最悪です。
部活動の成果を褒めてすぐ、部活を辞めてはどうか(という意味に取れる)ということを口にする。
こんなふうに会話をする人と、誰が仲良くしたいと思うでしょうか?
バカにされているようにしか聞こえませんし、すごく腹も立つでしょう。
「いったい何が言いたいんだ!」と言ってしまいそうですね。
これをやられると、特に幼い子ならなおさら、身動きが取れなくなってしまいます。
あすか先輩の家もアレですが、どうやら黄前家についても、風通しが良さそうではないことがわかります。