劇場版 響け!ユーフォ考察 オーディション編~特別の完成。脅威が絆を強くする~
- この記事は、作品の具体的な内容に、深く、大きく関わります。
「バレは困る!」という方は、残念ですが視聴後にご足労いただければ幸いです。
- セリフはすべて聞き起こしです。
間違いもあるかと思われますが、ご容赦ください。
・音楽室のシーン
部長の晴香が部内の状況を見過ごせないほどに、滝先生への不信は大きく広がってしまいました。
そこで、意見をまとめようと乗り出す部長。
「オーディションに不満がある人」と部員の挙手を求めると、計ったようなタイミングで扉が開いてしまいます。
そしてそこに現れたのは、やはり滝先生でした。
「今日はまた、ずいぶん静かですね。
この手は?」
「オーディションの結果に不満がある人です」
どこまでもストレートな優子はためらいもなく、隠すことをしない。
どうやら滝も、再オーディションを行うことを考えていたよう。
来週のホールの練習で、希望者には再オーディションを行うことが発表されます。
「全員で聞いて決定する。
これなら異論はないでしょう。
いいですね。
では聞きます。
再オーディションを希望する人」
スッと椅子から立ち上がり、真っ直ぐに手を伸ばす香織。
「ソロパートのオーディションを、もう1度やらせてください」
優子がお膳立てしてつくった舞台に、香織みずからが進み出て戦う意志を示します。
嬉し泣きの、優子。
香織が優子に頼み、それを受けて優子が動き回っていたわけではないでしょう。
ただただ、優子の勝手な気持ちだったはずです。
けれども、香織が自分で意志を示したことは、優子にとっては大きな意味を持ちます。
彼女の香織を思う気持ちが香織に届いた。
優子の想いが事態を突き動かした。
そんなシーンです。
・音楽室のシーン
「どうしたの?」
「ん、なんにもないよ」
明らかに何かある様子の、優子。
・空き教室
久美子が通りかかった、空き教室。
「どうしても、どうしても香織先輩にソロを吹いて欲しいの。
だから、お願い」
麗奈に90度、頭を下げる優子。
さすがの麗奈も動揺を隠せない。
「ワザと、負けろっていうんですか?」
「バレたら私が脅したことにしていい。
いじめられたって言ってもらって、構わない。
だから……」
「去年、香織先輩は部の中で1番上手かった。
でも学年順で、ソロは全然練習もしてないような上級生が吹いて。
それどころか香織先輩は、辞めようとしていた1年生を引き留めるために、コンクールメンバー辞退までしようとして。
でもみんな辞めちゃって。
そんなだからコンクールでの演奏も滅茶苦茶で」
「関係ないですよね。
私には関係ないことですよね!」
「そうね、関係ないよ。全然関係ない!
でも、あなたには来年もある。
再来年もある。
滝先生だったら、もっと部は良くなる。
香織先輩は最後なの。今年が最後なの。
だから!」
再び腰を折る、優子。
「止めてください。
失礼します」
正論を言う麗奈と、去年の揉め事を引っ張り出して、ひたすら感情に訴える優子。
2人の議論は平行線をたどるばかり。
そもそも優子の話には、もはや矛盾しか存在せず、破綻しています。
「オーディションで香織先輩が私より上手く吹けば~」という麗奈に、「わかってるよ」と言いながら、負けてくれと頼み続ける。
去年、「来年があるから」と我慢した香織とおなじように、麗奈におなじ我慢を強いる。
そんな話に来年の保障など、欠片も存在しないことをいまの香織の立場が証明しています。
真っ直ぐに見る麗奈と、伏し目がちな優子。
お願いされる麗奈は立場が強いため、黒板側、教卓側に立つ。
お願いする優子は、生徒側に立つ。
立ち聞きしてしまった久美子は、立ち去る麗奈にかける言葉がない。
隠れる久美子。
・ホール
・ホール外
オーディション前の、香織と優子
・ホールの廊下
香織に寄せる想いと、香織に想いを寄せながらも能力を信じきれない後ろ暗さ。
高坂麗奈に頼み込んだことへの罪悪感。
様々な想いを抱えきれず、走り出す優子。
「うわっ、何?」
夏紀の背中に飛びつきます。
しかし、優子の抱える暗い部分は、とても誰かに告白できるようなことではありません。
オーディションに『疑いの声を挙げた』のにもかかわらず、自分自身でオーディションの『公平さを失わせる行動をとっている』のですから。
再び顔を伏せて走り去るしかない優子。
・ロビー
直前になって、揺らぐ麗奈。
その顔は暗く、曇っています。
優子の必死のお願い効果でしょうか?
「久美子。
久美子は、もし私が負けたら、嫌?」
「麗奈……
嫌だ!
嫌だ!」
「どうして?」
「麗奈は特別になるんでしょ」
「そうね」
「ひとに流されちゃダメだよ。
そんなのバカげてるでしょ!」
ひときわ暗い、正面からの麗奈の姿。
「でも、いま私が勝ったら悪者になる」
「いいよ! そのときは、私も悪者になるから。
香織先輩より、麗奈の方がいいって
ソロは麗奈が吹くべきだって、言う。
言ってやる」
「本当に?」
「んんっ。たぶん」
本心がこぼれ、言い淀む久美子。
けれどもそれが、かえって麗奈を安心させます。
まさにいま、いつも自信に満ちた麗奈でさえ……
『自分が香織先輩をねじ伏せてしまったら、いったい何が起こるんだろう』
そんな不安の中にいるのです。
ましてや先輩と争うことを怖いと思った久美子(校舎裏で夏紀先輩の演奏を聞いたシーン)なら、どう思うでしょうか?
一緒に悪者のようになってしまうことに、わずかの恐れや不安もまったく抱かないとしたら、それは噓っぽいものになってしまいます。
……それでも、です。
逆説的ですが、不安さえも正直に隠せず伝えてしまう久美子です。
だからこそ、心の奥底から確信していると伝わってくるのです。
『麗奈が吹くべきだ』と。
そう信じているからこそ、「特別になるんでしょ」、「ひとに流されちゃダメ」と、麗奈を本心から激励するのです。
「やっぱり久美子は性格悪い」
そんな久美子に安心し、まるで暗闇のようだった柱の影から、まぶしい輝きが差す場所へと、踏み出す麗奈。
迷いや弱さの暗闇から抜け出し、本当の自分へと還っていきます。
それは特別な久美子の存在のおかげ。
顔を寄せ合う2人。
「そばにいてくれる?」
「うん」
「裏切らない?」
「もしも裏切ったら、殺していい」
「本気で殺すよ」
「麗奈ならしかねないもの。
それがわかったうえで言ってる」
今度は久美子から……
「だってこれは、愛の告白だから」
ここは当然、あがた祭りでの麗奈からの告白とシーンと対になります。
あのときは麗奈から、夜の展望台へ至る道で。
今回は、久美子から、眩しい光が差し込むロビーで。
愛の告白。
そうして2人は本当に特別になったのです。
麗奈にとっては、「(その程度で)本気で全国行けると思ったの?」と言い放った「性格悪い」久美子から、完全に認められるシーン。
「麗奈」
祭りの夜とおなじ、輝くような笑顔に変わる麗奈。
「大丈夫、最初から負けるつもりなんて、まったくないから!」
踵を返し、堂々と進む麗奈。
麗奈はこれから、証明しなければなりません。
夜の展望台のような隔絶した場所で、2人だけの特別ではなく、大勢のいる前で。
そして久美子が見守る中で、『自分は特別だと思ってるだけの奴じゃない』んだ、ということを……
久美子に認められたいま、それはすでに約束された勝利です。
まさにフラグが立った、ということですね。